社員の離職防止対策/離職率を下げるには

生産年齢人口の減少が止まらない中、人材の採用とセットで語られるべき問題が社員の離職です。転職が当たり前になり、新入社員の3人に1人が3年以内に離職するといわれる時代。さらに「雇用の流動性」がトピックになっている昨今、社員の離職防止は企業にとって喫緊の課題です。では、「離職率を下げる=定着率を上げる」にはどうしたら良いのか。本記事では社員が離職する理由を分析すると共に、社員と企業との関係性を見据えたこれからの時代の離職防止対策を解説します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

離職率を下げる取組みが求められている

退職届

社員の離職率を下げることは、すべての企業にとって大きな課題です。ここでは、離職防止が求められる背景、そして離職防止を行うべき理由を解説します。

社員の離職防止が求められる背景

我が国では少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少の一途をたどっています(内閣府「令和4年版高齢社会白書」より)。このような労働市場において、人材の獲得競争が激しさを増すことは想像に難くありません。さらに雇用の流動性を高め、成長産業に人材が移動しやすい雇用環境を作り出すことで、産業の発展、さらには経済の成長を促そうとする動きもあります。

こういった労働市場の変化の中では、生産性の高い人材ほど転職する可能性が高く、企業にとっては極めて重大な問題です。加えて、若い人ほど転職に対するネガティブな意識がなくなっており、転職は今や当たり前の時代になっています。生産性が高く優秀な人材、さらに若い人材の流出をどう防止していくのか。以上のような背景の中で、社員の離職防止は喫緊の課題としてその対策が求められているのです。

離職防止を行うべき理由

社員の離職防止を行うべき理由とは何か。それは、次のようなことが期待できるからに他なりません。

  • 優秀な人材の流出防止や定着の促進
  • 採用コストや教育コストの損失削減
  • 次世代リーダーの育成
  • 企業イメージの維持

離職防止を行うことにより優秀な人材の流出を防ぎ、定着を促進することができます。また、離職による採用コストや教育コストの損失を削減することにもつながります。さらに、若手の人材が定着することで、次世代のリーダーとして活躍の期待が高まるでしょう。高い離職率は、企業のイメージにも悪影響を与えます。離職率を下げることは負のイメージを払拭する効果もあり、企業のイメージを維持する役割をはたします。このように離職防止を行うことは企業にとって大きなメリットがあると共に、結果的に優秀な人材が活躍できる環境が整い、生産性の向上が期待できるのです。

なぜ離職するのか~離職防止対策の前に理由を分析する

社員

離職防止対策は、離職する理由を知ることから始まります。なぜ離職するのか。ここでは、その理由を分析します。

人間関係によるストレス

厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」の「前職を辞めた理由」によると、「職場の人間関係が好ましくなかった」が「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」に次いで2番目に高い数字となっています(その他の理由、定年、会社都合を除く)。ちなみに令和2年の同調査結果では、「職場の人間関係が好ましくなかった」が最も高い数字となっています。

上司や部下、そして同僚との問題をはじめ、顧客間でのトラブルなど、人間関係によるストレスは離職の大きな理由です。価値観の多様化と共に、人間関係が複雑化し関係性の構築が難しくなっています。人間関係が複雑化することによって起こるコミュニケーション不全が、関係性の構築を難しくし人間関係が悪化。その結果ストレスが蓄積され、離職へとつながってしまうのです。

会社の将来性への不安

会社の将来性への不安も離職の大きな理由です。会社の業績が不安定では、社員の将来不安が増すばかりです。「この会社にいても将来が見込めない」、「今のままでは成長できない」、「やりがいや達成感が感じられない」といった不安は悩みとなり、離職へとつながっていきます。将来への不安は仕事に対するモチベーションを下げ、生産性をも下げてしまいます。結果的に業績は上がらず、将来不安はさらに増して離職が増えるという悪循環となるのです。

労働条件への不満

先に記した通り、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は「前職を辞めた理由」で最も高い数字になっています。これは働く側にとって、「労働時間・休日休暇・給与」といった労働条件に対する関心が、いかに高いかという裏付けでもあります。最近は、ワークライフバランスへの関心の高まりから「自分の時間を大切にしたい」という価値観も浸透してきています。労働条件への不満に、企業はどのように対処していくのか。離職防止対策を考えるにあたって、避けては通れない問題なのです。

ミスマッチ

人と仕事のミスマッチも離職の原因になります。これは、新入社員に多く見られる傾向です。仕事内容や職種が本人の適正に合っていない場合、「スキルや経験が活かせない」といった不満になり、それが居心地の悪さに発展、離職へとつながるのです。また仕事内容や職種だけでなく、企業文化や社風へのミスマッチは、ある意味適正以上の居心地の悪さをまねき離職の原因となるのです。

柔軟な働き方ができない

コロナ禍で、リモートワークや在宅勤務が一気に広がりました。様々な意見はあるものの、働き方の選択肢として「オンライン」は重要なキーワードでしょう。また育児や介護がしやすい環境をどう整えるのかも大きな課題です。リモートワークや在宅勤務、育児や介護と仕事の両立といった「柔軟な働き方」ができるか否か。できない場合は離職して、柔軟な働き方ができる会社に転職するケースも今後は増えていくでしょう。柔軟な働き方に対応するための企業の制度設計が急がれています。

社員の離職を防ぐ方法

ディスカッション

ここまで見てきた離職理由の分析を踏まえた上で、社員の離職を防ぐ方法を解説します。

コミュニケーションを活性化させる

コミュニケーションを活性化させることは、離職防止を進めるベースになるものです。お互いの理解を深め関係性を構築するには、やはりコミュニケーションが欠かせません。リモートワークや在宅勤務が定着した中で「雑談」が見直されているのも、コミュニケーションの重要性を物語るものでしょう。メンター制度やフリーアドレス制の実施、コミュニケーションツールやバーチャルオフィスの導入といった施策を行うことで、コミュニケーションの活性化が期待できます。

1on1ミーティングを実施する

上司と部下のコミュニケーションを活性化させるには、1対1で定期的にミーティングを行う「1on1ミーティング」が効果的です。ここで重要なのは、社員の主体的な自己解決をフォローするというスタンス。悩みや課題をしっかりと聴き、自律的に行動できるよう能力を引き出す関わりが求められます。せっかくの1on1ミーティングが、強制や押しつけの場になっては意味がありません。マネジメント層にとっては、「傾聴スキル」が必須のものといえるでしょう。

労働条件を改善する

長時間労働や休日出勤、賃金への不満に代表される労働条件の改善は、社員の離職を防ぐために避けては通れない大きな問題です。給与制度や福利厚生の見直しに始まり、就業規則を見直す必要性もあるでしょう。それと同時に最も取組むべきことは、労働生産性を上げること。非効率な仕事の進め方を見直し、適材適所の人材配置を進めることは、生産性を高めると共に社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。ワークライフバランスの充実といった働くことへの価値観の多様化を踏まえ、働き方に対する「独自の企業文化」を見直すことも忘れてはなりません。

採用や人材育成方針を見直す

人材不足が叫ばれる中、安易な採用はミスマッチを増やす結果になりかねません。ミスマッチは採用した企業はもちろん、働く側にとってもマイナス要因でしかありません。自社にあった採用戦略を構築し、採用フローを最適化する施策が求められます。また採用した人材の定着のためには、人材育成方針を見直し明確化することが重要です。人材育成方針にそって、キャリアアップを目指し努力する社員を支援していく。そして成果を出している社員は、正当に評価する。さらに、会社内のキャリアパスを見える化することで、社員の自己実現に対する期待感を高め、「この会社で頑張りたい」と思ってもらうことが定着につながっていくのです。

キャリア形成を支援する

能力開発機会を積極的に提供することで、社員のキャリア形成を支援することも離職を防ぐ施策のひとつです。それは、キャリア形成支援が社員のエンプロイアビリティ(雇用されうる能力)を高め、日常業務において高い成果を期待できると共に、社員と企業との信頼関係の構築につながるからです。これからの時代は、社員と企業が「共に成長していく」という関係性が必要。キャリア形成支援は、その中核になるものです。ただキャリア形成支援を進めるにあたっては、「人材育成方針の明確化」と次に述べる「適切な評価制度の構築」が、セットであることが極めて重要です。※キャリア形成についてはこコチラの記事に詳しく書いています。ぜひご一読ください。

適切な評価制度を構築する

透明性の高い評価制度を構築することは、社員の安心感と期待感を高め定着を促進します。終身雇用が崩壊する中で、年功序列を廃止する動きも広がってきています。しかしまだまだ、定期昇給やベースアップが議論になること自体、年功賃金の考え方から抜けきれていない証左でもあります。社員の実績や成果を適切に評価するという、この当たり前の評価制度を構築し可視化することが、社員の定着に対するインセンティブになることはいうまでもないことでしょう。

離職率を改善させる職場の環境整備

ミーティング

社員の離職を防ぐ方法を解説してきましたが、最も意識すべきことがあります。それは、職場の環境を整備することです。柔軟な働き方や多様性に対応した労働環境の整備はそのひとつです。リモートワークや在宅勤務の導入、育児や介護と仕事を両立できる勤務体制の設計、健康やメンタルヘルス管理に対するケアなど、働きやすい職場環境を整えることは、離職率の改善につながるだけでなく人材採用の面でも有利に働くでしょう。

ただ職場の環境整備で最大の鍵となるのは、働く個人と企業との関係性の構築です。高度経済成長期以来の「相互依存」というつながりから、「自律対等」というつながりへの脱却。個人と企業は将来ビジョンを共有し、個人はキャリア形成に取組み、企業は働く個人を様々な面でサポートしていく。そこに「Win-Win」の関係性が育まれる。そのための環境整備が、今まさに求められているのです。離職率を改善させる職場の環境整備とは、働く個人と企業とが、将来に向かって伴走できる職場環境を作り上げることなのです。

社員の定着率を上げるマネジメント

セミナー

ここまで、社員の「離職率を下げる=定着率を上げる」方法を解説してきました。このように、企業が社員の離職防止対策を講じることを「リテンションマネジメント」といいます。「維持・保持」を意味するリテンション(retention)とマネジメントを組合せた言葉で、人材の流出を防止し定着を促進することで長く活躍してもらう管理手法のことです。これまで記してきた離職防止対策を実行することが、まさにリテンションマネジメントなのです。

リテンションマネジメントは、生産年齢人口の減少が止まらない現実の中で、企業が生き残るために不可欠な考え方です。リテンションマネジメントを効果的に実施することは、人材の流出を防ぐと共に人材の確保にも有利に働きます。そのためにはまず、自分の会社の現状そして課題を知ること。リテンションマネジメントは、そこから始まるのです。

社員の退職防止に従業員満足度調査を活用する

書類

会社の現状や課題を知ること。それが、リテンションマネジメントのスタートです。社員の退職防止を効果的に実行していくためには、社員一人ひとりの満足度を調査し組織の現状と課題を把握する必要があるのです。

リアルワン株式会社は、100万人以上のご利用実績を持つ調査・評価の専門会社です。科学的根拠に基づく信頼性の高い各種サーベイを行い、個人や組織の成長をサポートしています。会社の現状そして課題を知るには、組織と従業員の活力を映し出す「従業員満足度調査」がお勧めです。社員が自分の仕事の様々な側面について、どのように感じているのかを調査。組織の今の状態や課題を明らかにし、その結果をもとに効果的な施策につなげていく企業の健康診断といえるのが「従業員満足度調査」です。

リアルワン株式会社は、「豊富な実績・科学的な知見・柔軟性・フットワーク」など、人事・組織分野における調査・評価の専門会社ならではの強みを備えており、安心してお任せいただけます。実施した調査の活用支援やアンケートツールも充実しています。社員の離職防止対策は、まず会社の現状そして課題を知ることから。リアルワン株式会社の「従業員満足度調査」をぜひご活用ください。

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