働く環境の変化に合わせて、「学び直し」で新しいスキルを習得するリスキリングとリカレント教育が注目されています。
企業にとっても、変化する業務に対応し継続的な成長を担っていく人材の育成は、避けて通れない課題です。リスキリングとリカレント教育は、この人材育成の中核をなす取り組みと言えます。
ただ、リスキリングとリカレント教育の違いを理解していなければ、効果を得られないことにもなりかねません。本記事では、リスキリングとリカレント教育の違い、メリットデメリットを解説しながら、導入する上でのポイントを紹介します。
【本記事で得られる情報】
・リスキリングとリカレント教育の意味
・リスキリングとリカレント教育の違い
・リスキリングとリカレント教育のメリットデメリット
・リスキリングとリカレント教育を行うポイント
リスキリングとリカレント教育の違いとは?
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リスキリングとリカレント教育の違いを解説する前に、それぞれの意味を整理しておきましょう。
リスキリングとは?
リスキリング(reskilling)とは、変化するビジネス環境や新しい業務に適応するため、新たなスキルを身につける取り組みのことです。いま、リスキリングが必要とされる背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進があります。
DXを推進するには、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった、最先端テクノロジーに適応する人材の育成が不可欠です。その学習の場を企業が従業員に提供し、新しいビジネス環境に適応する人材を育成していく取り組みがリスキリングなのです。
リカレント教育とは?
リカレント教育とは、就職し社会人になってからも、自らが必要と考えるタイミングで一時的に職を離れて、教育を受け直し再び就職するという「学び直し」を表す言葉です。
リカレント(recurrent)には、「繰り返す・循環する」という意味があり、リカレント教育の場合は「働く→教育→働く→教育→働く」といったサイクルを表しています。
人生100年時代。現役として働く時間は、確実に長くなっています。この状況に対応するには、働く個人がライフステージの段階に応じて自ら「学び直し」を行い、新たなスキルを持った人材になることが求められます。
それには、職業人としての「引退」を迎えるまで、自分の市場価値を継続的に高めていく「学び直し」が欠かせません。その「学び直し」がリカレント教育であり、全ての職業人が考えるべき取り組みと言えるのです。
リスキリングとリカレント教育の違い
それでは、リスキリングとリカレント教育の違いを解説します。両者の違いを、5つの観点から表にまとめてみました。
【リスキリングとリカレント教育の違い】
リスキリング | リカレント教育 | |
---|---|---|
取り組みの主体 | 企業 | 個人 |
取り組む目的 | 変化するビジネス環境への適応 | 個人のキャリアアップ |
学習内容 | 現場で活かせる新しいスキル | 個人が学びたいスキル |
学習方法 | 自社で研修・オンラインの活用 | 教育機関やオンラインを活用 |
仕事の継続 | 働きながら学ぶ | 休職または離職して学ぶ |
リスキリングとリカレント教育の大きな違いは、「取り組みの主体」そして「仕事の継続」にあります。「取り組みの主体」については、リスキリングが「企業」であるのに対して、リカレント教育は「個人」が主体です。
また「仕事の継続」については、リスキリングが「働きながら学ぶ」のが基本に対して、リカレント教育は「休職または離職して学ぶ」のが一般的です。これは、リスキリングとリカレント教育の「目的」の違いからくるものです。
では、表で示した違いを頭に置き、リスキリングとリカレント教育のメリットデメリットを見ていきましょう。
関連記事:リスキリングの導入事例5選~会社の成功事例と導入ステップを紹介
リスキリングのメリットデメリット
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それではまず、リスキリングのメリットとデメリットを解説します。
リスキリングのメリット
リスキリングには、次のようなメリットがあります。
【リスキリングのメリット】
・業務が効率化し生産性が上がる
・採用コストを削減できる
・ビジネス領域の拡大につながる
詳しく解説します。
業務が効率化し生産性が上がる
リスキリングによって、従業員がDXに対応するスキルを習得すれば、業務が効率化し生産性が上がります。これは、大きなメリットでしょう。
生産性の悪さが指摘される日本において、業務の効率化は待ったなしの課題です。業務の効率化は、残業の削減にもつながります。
残業が減ることによって、従業員のワークライフバランスも高まります。そしてそれは、業務に向き合う従業員のモチベーションを向上させ、従業員満足度やエンゲージメントの向上につながっていくのです。
採用コストを削減できる
リスキリングに取り組みDX人材を自社で育成すれば、外部の人材を登用する必要がないため、採用コストを削減できます。これも、リスキリングのメリットでしょう。
DX人材は獲得競争が激しく、採用活動が長期化する可能性もあります。こうなると、どうしても採用コストが膨らんでしまいます。
DXは、人材不足が顕在化する現在、様々な産業にとって喫緊の課題です。DX人材を自社で育成すれば、採用コストを削減できると同時に、DXへの対応も実現できるのです。
ビジネス領域の拡大につながる
リスキリングによって新しいスキルを習得すれば、斬新なアイデアを創出する可能性が高まります。斬新なアイデアは、ビジネス領域の拡大につながる可能性を秘めています。これも、リスキリングのメリットのひとつでしょう。
ビジネス環境は、常に変化しています。企業が継続的に成長していくには、変化する環境への適応と新たな成長分野の構築が求められます。変化の激しい時代、他社との差別化を図り成長性を高めるためにも、リスキリングが必要なのです。
リスキリングのデメリット
では、リスキリングのデメリットを見ていきましょう。
【リスキリングのデメリット】
・様々なコストが発生する
・モチベーション管理が難しい
・転職されるリスクがある
ひとつずつ解説します。
様々なコストが発生する
リスキリングを行うには、様々なコストが発生します。実施には、研修用の教材費や会場代がかかります。他にも、自社で教育プログラムを構築したり講師役を従業員が務めたりすれば、人的・時間的コストが発生します。
さらに、リスキリングを外部に委託すれば、研修費用や講師代といったコストがかかるでしょう。このように、様々なコストが発生することは、仕方がないこととは言え、リスキリングのデメリットと言えるでしょう。
モチベーション管理が難しい
新しいスキルを習得するには、時間がかかります。学びを継続するには、努力する気持ちと強い意志が欠かせません。ただそこには、少なからずストレスが発生します。ストレスは、学びに向き合う従業員のモチベーションを著しく低下させてしまいます。
従業員のモチベーションを、どのように管理し維持していくのか。モチベーション管理が難しいのも、リスキリングのデメリットです。リスキリングを行う際は、モチベーション管理を含めたサポート体制の整備が求められます。
転職されるリスクがある
リスキリングで、新しいスキルを身につけた従業員は、より良い仕事環境や待遇を求めるものです。転職を考えても不思議ではないでしょう。転職されるリスクは、リスキリングのデメリットのひとつです。
育成した従業員の流出を防ぐには、働く環境の整備が必須です。リスキリングによって、習得したスキルを活かせる場所を作ったり評価に紐づけたり、転職を防ぐ方策が必要不可欠になります。
関連記事:リスキリングで何を学ぶ?自社に合った分野と学習方法の選び方を解説
リカレント教育のメリットデメリット
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次に、リカレント教育のメリットとデメリットを解説します。
リカレント教育のメリット
まず、リカレント教育のメリットを解説します。
【リカレント教育のメリット】
・高度なスキルや知識が身につく
・キャリアの幅が広がる
・収入の増加が期待できる
詳しく見ていきましょう。
高度なスキルや知識が身につく
リカレント教育の最も大きなメリットは、高度なスキルや知識が身につくことです。具体的には、DX領域のスキルはもちろん、法律や会計、医療や建築といった分野の高い専門性などです。
個人が自分のライフステージの段階に応じ、主体的に「学び直し」を継続することでスキルや知識は適応範囲を広げていきます。
人生100年時代の中、職業人として長く活躍するためにも、高度なスキルや知識が身につくリカレント教育は、メリットが大きいと言えるでしょう。
キャリアの幅が広がる
キャリアの幅が広がることも、リカレント教育のメリットです。リカレント教育によって、幅広いスキルや知識を身につければ、様々な業界で働くチャンスが広がります。
リカレント教育は、個人が学びたいスキルをキャリアアップするために取り組むものです。主体的な学びは専門性を高めると共に、仕事に向き合うモチベーションを向上させるでしょう。
高い専門性と前向きな姿勢は、企業の高い評価につながり、ひいてはそれが職業人としての選択肢を広げることにつながるのです。
収入の増加が期待できる
リカレント教育によって、高度なスキルや知識を身につければ、収入の増加が期待できます。これは、リカレント教育の大きなメリットです。実際、リカレント教育による収入の増加はデータによって示されています。
内閣府よれば、リカレント教育などの「自己啓発」を実施した人と実施しなかった人の年収には、2年後で約10万円、3年後には約16万円の差が見られると報告しています。このようにリカレント教育は、収入の面でもメリットが大きいと言えるのです。
リカレント教育のデメリット
では、リカレント教育のデメリットを解説しましょう。
【リカレント教育のデメリット】
・費用がかかる
・仕事との両立が難しい
・評価につながるとは限らない
ひとつずつ見ていきましょう。
費用がかかる
リカレント教育は、個人が主体的に学習機会を作り、学び直しを行うものです。しかし、それには一定の費用がかかります。大学や専門学校に通えば、入学金や授業料がかかります。オンライン講座やeラーニングの利用でも、費用が発生するでしょう。費用は仕方がないことですが、デメリットとも言えます。
リカレント教育に取り組む際は、費用をどう賄うのか考えておかなければなりません。学習期間が延びたり資格を取得したりすれば、費用はさらに拡大します。また、「学習期間=時間的コスト」であることも忘れてはなりません。
仕事との両立が難しい
先に述べた通り、リカレント教育は個人が主体となるため、一時的に休職したり退職したりして取り組むのが一般的です。仕事との両立が難しいことは、リカレント教育最大のデメリットでしょう。
仕事を続けながらの「学び直し」は、不可能ではありません。しかし、両立には強い意志と覚悟が求められます。休職するには会社との交渉、退職を選べば再就職が課題でしょう。
個人の主体的な学びと仕事の両立を、どのようにクリアしていくのか。リカレント教育の大きな課題です。
評価につながるとは限らない
リカレント教育の学習内容は、個人が「学びたいスキル」を選ぶのが基本です。目的も、個人が自己実現を目指しキャリアアップすることにあります。
しかし、選んだ「学びたいスキル」が次のステージの評価につながるとは限りません。これも、リカレント教育のデメリットのひとつです。
リカレント教育に取り組む際は、まずキャリアの棚卸しを行いましょう。得意なスキルを伸ばしたり資格を取得したり、次のステージを意識した学習が、本当のキャリアアップと評価につながるのです。
関連記事:リスキリングの課題とは?進まない理由と課題の解決方法を解説
リスキリングとリカレント教育のポイント
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ここからは、リスキリング、そしてリカレント教育に取り組む際のポイントを解説します。
リスキリングを行うポイント
はじめに、リスキリンを行う際のポイントを解説します。
【リスキリングを行うポイント】
・自社の状態を把握する
・従業員と実施目的を共有する
・学習環境を整える
リスキリングに取り組む際の最も大切なポイントは、自社の状態を把握することです。従業員がどのようなスキルを持ち、そのレベルがどれくらいなのか、現状分析を行います。
現状を分析することで、自社の課題や将来的に必要な要素が見えてくるでしょう。リスキリングに使える時間や予算、講師役が務まる人材の有無も明確になります。
自社の状態を把握しリスキリングが必要となれば、従業員と実施目的を共有します。実施にあたっては、従業員の主体性を尊重しながらモチベーションの維持に努めましょう。
さらに、組織として取り組むことを説明し長期的なサポート体制を作るなど、リスキリングに向き合いやすい学習環境を整えることが重要です。
リカレント教育に取り組むポイント
次に、リカレント教育に取り組む際のポイントを解説します。
【リカレント教育に取り組むポイント】
・目的を明確にする
・求職か退職か会社サイドと話し合う
・復職や再就職のプランを立てて取り組む
まずは、リカレント教育に取り組む目的を明確にしましょう。ここが明確でなければ学習内容を選ぶことができません。リカレント教育を、効果的な取り組みにするためにも目的を明確にすることが重要です。
また、休職するのかそれとも退職するのか、会社サイドと話し合う必要があります。状況によっては、会社がリカレント教育を支援する場合もあるでしょう。
そして、休職した場合はいつ復職するのか。また、退職した場合は再就職をどうするのか。リカレント教育は、復職や再就職のプランを立てて取り組むことが重要です。
関連記事:組織開発とは?事例や手法(フレームワーク)について
リスキリングとリカレント教育は目的を明確にして導入する
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「リスキリングとリカレント教育の違い」で解説した通り、両者は「取り組みの主体」において大きな違いがあります。
リスキリングは、企業が主体となり従業員に「現場で活かせる新しいスキル」を習得する場を提供する。一方リカレント教育は、個人が主体となり「学びたいスキル」を選んで学ぶのが基本です。本記事は、この基本に沿ってリスキリングとリカレント教育を解説してきました。
しかし、最近では企業がリカレント教育を支援する動きも広がっています。それは、個人と企業とのつながり方が変わってきているからに他なりません。
これまで個人と企業は、終身雇用・年功序列に代表される「相互依存」というつながり方を続けてきました。しかし現在は、従業員自らが自律的かつ主体的にキャリア形成を行い、企業がそれを支援する「自律対等」というつながり方に変化しつつあります。
それは、働く側に「エンプロイアビリティ:雇用されうる能力」を高めたいという意識が広がっているからでしょう。この動きについては、本コラムの記事「キャリア形成とは?考え方やサポートの方法について」で詳しく解説しています。
このような意識の変化の中で、特に重要になるのが「目的」です。リスキリングを実施するにせよ、リカレント教育を支援するにせよ、「自律対等」なつながり方を維持するには、従業員が納得する目的が重要になります。
目的が曖昧では、従業員のモチベーションが上がらないばかりか時間と費用の無駄遣いになってしまいます。リスキリングとリカレント教育は、目的を明確にして導入する。極めて重要なポイントです。
最後に
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ここまで、リスキリングとリカレント教育の違い、メリットデメリットについて解説しました。本文で述べた通り、リスキリングを行う最も大切なポイントは「自社の状態を把握する」ことです。そしてそれは、リカレント教育を企業が支援する場合も同じです。
自社の状態を把握するには、現状分析が必要です。では、具体的にどんな方法で現状を分析すればよいのでしょうか。おすすめは、組織サーベイの活用です。組織サーベイとは、従業員と会社の状態を可視化するアンケート調査のことです。従業員が持つスキルや会社の状況を、数値によって可視化します。
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リスキリングやリカレント教育に取り組むため、自社の状態を把握したいとお考えの企業様は、ぜひリアルワンの組織サーベイをご活用ください。