リスキリングで何を学ぶ?自社に合った分野と学習方法の選び方を解説

少子化という不安材料を抱える日本の企業において、業務の効率化を図るために「リスキリング」で新しいスキルを習得する動きが広がっています。リスキリングは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上でも不可欠であり、DX化が遅れていると言われる日本の企業にとって、待ったなしの取り組みです。

ただ、その重要性は理解していても、いざリスキリングに取り組もうとすると、「何を学ぶ?」と迷ってしまう方が多いのも事実でしょう。そこで今回は、リスキリングで「何を学ぶ?」をテーマに、自社に合った分野や学習内容の見つけ方、また学習方法の種類とその選び方を解説します

【本記事で得られる情報】

・リスキリングで学ぶべきスキル
・リスキリングで学ぶ分野の見つけ方
・リスキリングの学習方法
・リスキリングの学習方法の選び方
・リスキリングに活用できる補助金と助成金の知識  

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

リスキリング調査に見る「学ぶべきスキル」とは?

リスキリングで、何を学ぶのか?ここでは、この疑問をクリアするため、HR総研が行った調査(※)の設問「リスキリングの取組みにより社員に習得してほしいスキル」の回答をもとに、「学ぶべきスキル」について考えます。

「社員のリスキリング」に関するアンケート/HR総研・2023年

【社員のリスキリングに関するアンケート調査】

出典:「社員のリスキリング」に関するアンケート/HR総研・2023年

グラフの内容を整理してみます。

リスキリングで習得してほしいスキルは、DX化の流れを受けて、やはり「IT・デジタルリテラシー・スキル(75%)」が最も高くなっています。

ただし、それに続くのは「ロジカルシンキング(52%)「マーケティングスキル(43%)」であり、決してIT系スキルの習得だけが求められている訳でありません。それは、調査結果が「財務・会計関連スキル」「営業スキル」「語学」の順で続いているのを見ても明らかでしょう。

リスキリングが必要とされる背景には、DXの促進があるのは確かです。しかし、その根本には「業務の効率化」と「業績の向上」があります。それには、DXに対応する人材の育成だけではなく、業務に関わる本質的なスキルや知識のリスキリングが必要なのです。

リスキリングで学ぶべきスキルを見つけるには、自社の業務に関わるスキルや知識を点検し、今後の事業戦略に照らし合わせて考える必要があるのです。

関連記事:リスキリングとは?~必要とされる背景と導入メリット 

リスキリングで学習すべき6つのスキル

それでは、HR総研の調査で示された上位6つのスキルについて、その重要性を解説します。

ITリテラシー

ITリテラシーとは、コンピューターや情報通信ネットワーク、クラウドサービスといった技術を、適切に理解し活用するスキルのことです。データ管理システム情報セキュリティに関する知識、情報の見極め方SNSに対する理解もITリテラシーに含まれます。

DXが進む中、ITエンジニアではない人材においても、ITリテラシーの習得は必須の課題です。リスキリングでITリテラシーを高めれば、DXによる業務の効率化に適応できる共に、データ管理やセキュリティへの対応力も高めることができるのです。 

ロジカルシンキング

ロジカルシンキング(論理的思考)とは、物事を体系的に整理して考え、矛盾がないように結論を導き出す思考法のことです。課題解決データ分析プレゼン文書作成といったビジネスシーンにおいて欠かせないスキルと言ってよいでしょう。物事が複雑化した現在においては、特に必要になるスキルです。

変化の激しい時代においては、正解を導き出すのが難しく、その時々の状況に応じた最適解が求められます。それには、筋道を立て客観的かつ論理的に物事を考えなければなりません。リスキリングでロジカルシンキングを鍛えることは、ビジネス領域に欠かせないだけではなく、不確実な時代を生きる力となる取り組みなのです。

マーケティングスキル

マーケティングとは、商品やサービスをより効果的に販売するために必要な仕組みのことです。収集した情報の分析販売計画の企画立案コンテンツ制作などが主な業務になります。

ただ、デジタル社会となりマーケティングもデジタル化しています。今後は、デジタル広告やSNSの運用SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)といったデジタルマーケティングのスキルや知識がより重要になってくるでしょう。

その他、MA(Marketing Automation:マーケティングオートメーション)、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)、CRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)といった、営業活動支援ツールを扱うスキルもマーケティングスキルの領域と言えます。

財務・会計スキル

会社の「お金」を管理する分野である財務や会計のスキルは、組織の健全な運営にとって欠かせないものです。どれだけ優れたソフトを導入しても、数字を分析し経営者に適切な助言を行うのは「人」に他なりません。それは、今後ますますAIが普及しても大きくは変わらないでしょう。

具体的には、財務・会計に関する知識会計ソフトを扱うスキル財務計画を立案する能力などです。また、外部機関やステークホルダーとやり取りするコミュニケーション能力も必要になります。財務・会計スキルをリスキリングで学ぶことは、DXやAIが進む社会だからこそ、それを扱う「人」の育成に欠かせない取り組みと言えるのです。

営業スキル

デジタル化が進み、販売チャンネルが多様化しても、営業スキルが不要になることはないでしょう。ただし、先に述べた営業活動支援ツールの普及で営業プロセスが細分化され、営業活動の効率化が予想されます。これは「営業DX」の一環であり、リスキリングもそこを踏まえる必要があります

具体的には、営業にとって普遍的なスキルであるコミュニケーション能力交渉力をはじめ、傾聴力課題発見能力分析力などはリスキリングで学ぶ必須分野です。加えて、普及が拡大すると見られる営業活動支援ツールに関する知識も、リスキリングの対象に含まれると考えるべきでしょう。

語学

グローバル化が進み、ビジネスにおける語学の重要性は増すばかりです。特に英語は、世界の公用語として広がっており、リスキリングで学ぶべきスキルとして高い人気を誇ります。もちろん、事業の方向性や顧客の属性などで学ぶ言語は変わってくるでしょう。

中でも、日本企業との結びつきが深い中国市場を考えれば、中国語が重要になることは想像に難くありません。とは言え、まだまだ話せる人材が少ないのも現実です。このように、英語や中国語に代表される語学は、今後もリスキリングの対象分野として広く定着していくことでしょう。

関連記事:リスキリングの導入事例 

リスキリングで学習する内容を見つける方法

では、リスキリングで学習する内容を見つけるには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、その方法を考察します。

【リスキリングで学習する内容を見つける方法】

・事業戦略を立てスキルギャップを検証する
・DXへの対応だけを目的にしない
・従業員のキャリア形成を意識する

ひとつずつ詳しく解説します。

事業戦略を立てスキルギャップを検証する

リスキリングで学習する内容を見つけるには、変化を予想した上で、これから進むべき事業戦略を立てる必要があります。そして、その事業戦略に照らして、必要になるスキルと現在社内で保有するスキルとのギャップを検証するのです。これから起こる変化に対して、どのように対処していくのか、明確にイメージすることが重要です。

変化を予想することは、簡単ではありません。しかし、情報を分析することで一定の方向性を示すことはできるはずです。方向性が決まれば、事業戦略が明確になり必要になるスキルが見えてきます。後は、スキルギャップを検証し、学ぶべきスキルを対象にリスキリングを実行します。

DXへの対応だけを目的にしない

本記事の冒頭で紹介した、HR総研の調査で分かる通り、リスキリングで学ぶべきスキルは多岐にわたります。DXへの対応だけを目的にしないこと、また、柔軟性を持って学習内容を考えることが自社に合ったリスキリングの分野を見つける近道です。

リスキリングへの入口から偏った考え方をしては、学ぶべき本質的なスキルを見誤ってしまいかねません。市場のニーズを調査し事業戦略に照らした上で、短期的な視点、そして中長期的な視点を意識しながら、自社に合ったリスキリングの分野を見つけていきましょう

従業員のキャリア形成を意識する

リスキリングの学習内容を見つける際、もうひとつ大切なことがあります。それは、従業員のキャリア形成を意識することです。会社のためだけにリスキリングを実施しても、学習に向き合う従業員のモチベーションを維持できない可能性があります。

従業員のキャリア形成を意識することで、リスキリングを自分事として捉え、モチベーションを維持しやすくなります。加えて、年代も意識します。

「20代・30代・40代・50代」、年代ごとのキャリアを考えれば、リスキリングで学ぶ内容も変わって当然です。個人の特性と共に、各年代に求められるスキルや役割を考慮し学習内容を決めることで、リスキリングに対する前向きな意識の醸成につながります。

関連記事:キャリア形成とは?考え方やサポートの方法について

リスキリングの方法と学習方法の選び方

リスキリングで学ぶ内容が決まったら、次はどう学ぶのかを決めましょう。ここでは、リスキリングの学習方法と、その選び方を解説します。 

リスキリングの方法

まずは、リスキリングの学習方法を解説します。主な学習方法は、次の3つです。

【リスキリングの学習方法】

・自社で研修を行う
・オンライン講座を利用する
・社会人大学を活用する

詳しく見ていきましょう。

自社で研修を行う

リスキリングの教育プログラムを構築し、対象となる従業員に学習コンテンツを提供。自社で研修を行う方法です。事業戦略に合わせた学習コンテンツで教育できるため、自社に合ったスキルの習得が期待できます。リスキリングにかける費用や時間に、自由度をもたせることができるのもメリットでしょう。

ただ、教育プログラムを構築し、学習コンテンツを準備するには相応の時間とノウハウが必要です。さらに、講師を務める人材も必要になります。リスキリングを自社で行う場合は、自社の状況を細かく把握し、研修ができるのか精査することが重要です。

オンライン講座を利用する

自社で研修を行うことが難しい場合は、オンライン講座を利用する方法があります。外部機関が用意する講座をオンラインで受講するため、時間やノウハウ、講師を務める人材の問題をクリアすることができます。

ただし、外部に委託するため、ある程度の費用が発生するのは仕方がないでしょう。さらに、タイプによっては、自宅で受講する講座もあるため、従業員が集中して学習に向き合えるよう何らかの方策を取り入れる必要があります。

リスキリングにオンライン講座を取り入れる際は、従業員が自ら率先して取り組める環境作りが重要になることを忘れてはなりません。

社会人大学を活用する

社会人大学は、企業を対象に人材育成をはじめ、様々な支援を行っている民間組織です。コミュニケーションやネゴシエーション、プレゼン、リスクマネジメントといった、社会人にとって不可欠であるスキルや知識の研修を、オンライン・オフラインで提供しています。

この社会人大学を、リスキリングで活用する企業が増えてきています。社会人大学には、多様な講義が用意されており、リスキリングの方針に合わせた選択が可能です。導入にあたっては、ヒアリングを通して課題を洗い出し、企業の実情に応じた研修の提案も行っています。 

学習方法の選び方

リスキリングの学習方法には、ここまで見てきた方法に加えて、学習コンテンツを視聴するeラーニングなどがあります。では、どのような考え方で学習方法を選べばよいのでしょうか。

ひとつは、従業員の好みや性格に合わせることでしょう。リスキリングの対象となる従業員の特徴を理解し、適切な学習方法を導入します。費用対効果で決定することも、選び方のひとつでしょう。学習方法を複数用意し、従業員の選択に任せるのもひとつのやり方です。

どの考え方で選ぶにせよ、リスキリングを実施した後は、必ず効果検証を行いましょう。従業員へのアンケートやヒアリングを通してリスキリングの効果を検証し、学習方法が自社に合っているのかを確認することが重要です。

関連記事:リスキリングを導入する際のポイント

リスキリング~助成金・補助金の知識

リスキリングをより身近にするため、助成金や補助金といった制度が用意されています。ここでは、リスキリングで活用できる助成金と補助金について、対応する制度の概要を含めて解説します。

助成金とは

助成金とは、国や地方自治体が労働環境の安定や雇用対策を目的として、能力開発や雇用促進、労働環境の改善などに取り組む企業を資金面でサポートする制度です。厚生労働省などが、主に管轄します。ここでは、例として「人材開発支援助成金」と「DXリスキリング助成金」を紹介します。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、企業が従業員に対して、職務に関連するスキルや知識の習得を目的として、職業訓練などを計画的に行った場合に利用できる制度です。職業訓練に関わる経費の一部、また訓練期間中の賃金の一部について助成を受けられます。人材開発支援助成金は、次の5コースを設定しています。

【人材開発支援助成金の5コース】

・教育訓練休暇等付与コース
・建設労働者認定訓練コース
・建設労働者技能実習コース
・人への投資促進コース
・事業展開等リスキリング支援コース

変化するビジネス環境において、従業員のスキルアップや学び直しは必須の課題です。リスキリングの内容、そして自社のニーズに合ったコースを選択し、有効活用したい制度と言えます。

【活用イメージ】
新規事業を展開するため、新たな分野で必要なスキルや知識の習得を目指し職業訓練を行う。

参考サイト:厚生労働省/人材開発支援助成金

DXリスキリング助成金

「東京しごと財団」が実施するDXリスキリング助成金は、企業が従業員に対して、DXに関連する職業訓練を実施した場合に利用できる制度です。本制度は、東京都内の中小企業が対象になります。対象となる職業訓練は、教育機関が提供する研修やeラーニングなどで、その経費の一部について助成を受けられます。

申請できる中小企業は、「小売業・飲食業」「サービス業」「卸売業」「その他の産業」に分類され、資本金や従業員数で区分されています。東京都内でDX人材の育成促進を考えている中小企業にとっては、検討すべき助成金制度といえるでしょう。

【活用イメージ】
DXに対応するため、外部講師を招き教育研修を行う(またはeラーニングを実施する)。

参考サイト:東京しごと財団/DXリスキリング助成金

補助金とは

補助金とは、国や地方自治体が公益につながる事業の推進を目的として、適合する事業に対して資金面でのサポートを行う制度です。管轄するのは、経済産業省や中小企業庁などです。企業が取り組みを行うにあたって、国や地方自治体に申請を行い、その取り組みが公益につながる活動として認められた場合にのみ支給されます。

助成金は、制度の要件を満たせば基本的に支給されます。これに対して補助金は、申請しても公益性が認められなければ支給されない場合があります

また補助金は、新しい取り組みに対する投資や開発を対象に支給される制度です。よって、新しい取り組みに向けた人材育成がリスキリングといったイメージです。ここでは、その例として「ものづくり補助金」と「IT導入補助金」を紹介しましょう。

ものづくり補助金

ものづくり補助金とは、中小企業や小規模事業者が制度変更に対応するため、サービスや生産工程の改善ができるよう、設備投資などを支援する制度のことです。正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言います。制度には、5つの枠が設定されています。

【ものづくり補助金5つの枠】

・通常枠
・回復型賃上げ/雇用拡大枠
・デジタル枠
・グリーン枠
・グローバル市場開拓枠

ものづくり補助金は、「ものづくり」という名称から製造業向けの補助金と思われがちです。しかし、実際には幅広い業種が対象になる補助金です。ただし、具体的な補助率は、枠や要件によって異なるため、自社の取り組みに合わせて確認が必要になります。

【活用イメージ】
・自社のコア技術を活かし、異業種である医療分野の検査機器を開発。合わせて人材育成(リスキリング)を行う。
・農産物を生産する企業が、ICT活用による品質管理システムを導入。合わせて人材育成(リスキリング)を行う。

参考サイト:ものづくり補助事業公式ホームページ~ものづくり補助金総合サイト

IT導入補助金

IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者が生産性の向上を目的とした、ITツール(クラウドサービス・パッケージソフトなど)の導入を支援する制度のことです。ITツールを活用し、DX化や業務効率化、自社の課題解決を図りたいときに活用したい制度です。補助対象には、次のような枠があります。

【IT導入補助金の補助対象】

・通常枠
・インボイス枠(インボイス対応類型)
・インボイス枠(電子取引類型)
・セキュリティ対策推進枠
・複数社連携IT導入枠

補助金申請者は、複数社連携IT導入枠を除き、IT導入補助金事務局に登録されている「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組むことで補助金の申請が可能になります。

【活用イメージ】
・営業及び顧客管理を強化するため「MA・CRM・SFA」を導入。合わせて人材育成(リスキリング)を行う。
・業務の効率化を目指しRPA(業務自動化)を導入。合わせて人材育成(リスキリング)を行う。

参考サイト:IT導入補助金2024~令和5年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業 

最後に

今回は、リスキリングで「何を学ぶ?」をテーマに、自社に合った分野や学習内容の見つけ方、そして学習方法の種類とその選び方を解説しました。

AIやIoTの発達を受けて、「リスキリング=DX人材の育成」と思い込みがちです。しかし実際は、HR総研の調査で示された通り、これまでのビジネスで必要とされていた普遍的なスキルや知識の習得がリスキリングに求められています。ただし、そこで大切になるのは「変化に対応するためのスキルや知識を主体的に学び直す」という姿勢です。

そのためには、従業員が主体性を持ってリスキリングに向き合える環境を整える必要があります。環境整備のスタートは、自社の状態を把握することから始まります。自社のことを把握するには、組織サーベイの活用が有効です。

リアルワン株式会社は、組織サーベイの専門会社です。信頼性の担保された、「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」「360度評価」で、会社の状態を定量的に把握できます。組織サーベイの導入にあたっては、各種サーベイの選定や設計、実施から実施後のフィードバックに至るまで、横断的な運用サービスを提供しています。

リスキリングの実施に向けて、会社の状態を把握したいとお考えの担当者の方は、ぜひ一度リアルワンにお問い合わせください。

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