変化するビジネス環境やDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するため、新しいスキルや知識を習得するリスキリングの必要性が高まっています。しかし、リスキリングには様々な課題があります。リスキリングに取り組む際には、この課題を把握しどう対処するのか考えておくことが重要です。
本記事では、リスキリングの課題を「企業側・従業員側」から考察し、その解決方法を解説。合わせて、リスキリングに取り組む企業の事例を紹介します。
【本記事で得られる情報】
・企業におけるリスキリングの取り組み状況
・リスキリングの課題(企業側、従業員側)
・リスキリングの課題を解決する方法
・リスキリングの導入事例
リスキリングの現状を解説
リスキリングの課題を考察する前に、まずはリスキリングの取り組み状況を把握しておきましょう。ここでは、HR総研が行った調査(※)をもとに、リスキリングの現状を解説します。
※「社員のリスキリング」に関するアンケート/HR総研・2023年
【社員のリスキリングに関するアンケート調査】
出典:「社員のリスキリング」に関するアンケート/HR総研・2023年
掲載した図表は、リスキリングの取り組み状況を企業の規模別に表したものです。細かく見ていきましょう。
「すでに取り組んでいる」の割合を見ると、1,001名以上の大企業が47%であるのに対して、301~1,000名の中堅企業は20%、300名以下の中小企業では19%となっています。数字からは、大企業ほどリスキリングに取り組んでおり、中堅・中小企業では取り組みが進んでいないことが分かります。
ただ、大企業でも取り組んでいる割合は47%であり、この数字を多いとみるか少ないとみるかは、意見の分かれるところでしょう。それより深刻なのは、「今後も取り組む予定はない」と答えた中堅企業が31%、中小企業にいたっては40%もあることです。
リスキリングが必要とされる背景については、先の記事「リスキリングの導入事例5選~会社の成功事例と導入ステップを紹介」で解説した通りです。
なぜ、多くの企業がリスキリングに取り組めていないのでしょうか。それは、リスキリングが様々な課題を内包しているからに他なりません。次項では、その課題について見ていきましょう。
リスキリングの課題~進まない理由とは?
では、リスキリングの課題を企業側と従業員側の両面から考察していきます。
企業側の課題
まずは、リスキリングの課題を企業側から考察します。企業の側からリスキリングを検証すると、次のような課題が見えてきます。
【リスキリングの課題:企業側】
・時間と予算の確保が難しい
・育成スキルを持った人材がいない
・習得するスキルが明確になっていない
詳しく解説します。
時間と予算の確保が難しい
リスキリングは、基本的に通常業務と並行して行われます。従業員は、忙しい日常業務をこなしながら研修と向き合うことになります。これは、リスキリングの対象となる従業員、そして講師を務める従業員も同じです。時間の確保は、リスキリングの大きな課題です。
また、リスキリングにはコストがかかります。研修用の教材費や会場代、外部に依頼する場合は、研修費用や講師代などです。予算の確保もまた、リスキリングの大きな課題です。ただ、リスキリングの必要性を考えれば、ある程度のコストは必要不可欠でしょう。
リスキリングに充てる、時間と予算をどう確保するのか。リスキリングを実施する上で、クリアすべき企業側の課題と言えます。
育成スキルを持った人材がいない
リスキリングを行う際、育成スキルを持った人材がいないことも企業側の課題のひとつです。従業員を「教え育てる」スキルは、誰もが持っている訳ではありません。マネジメントスキルが優秀だからといって、育成スキルが優れているとは限らないのです。
育成スキルが低い従業員が講師となり、教育プログラムを実行すれば、リスキリングの効果は上がらないでしょう。それどころか、マイナスの影響を与えかねません。リスキリングを自社で行う場合は、指導力を向上させる研修やサポートを事前に行い、育成スキルをアップさせる取り組みが不可欠になります。
習得するスキルが明確になっていない
「従業員に学ばせるスキルが明確にならない」「学んでほしいスキルを特定できな」など、習得するスキルが明確にならないことも大きな課題です。学ぶべきスキルを明確にしないと、リスキリングは決してうまくいきません。ITリテラシーを高めたいのに、語学の研修を行ってもリスキリングにはならないのです。
リスキリングを実施するには、自社にとってどのようなスキルや知識が必要なのかを把握しなければなりません。それには、今後進むべき事業戦略を明確にし、学ぶべきスキルを検証する必要があります。現在、自社が保有するスキルと今後必要になるスキルとのギャップを検証し、そのギャップをリスキリングで補っていくのです。
従業員側の課題
次に、従業員側からリスキリングの課題を考察します。従業員の側からリスキリングを検証すると、次のような課題が見えてきます。
【リスキリングの課題:従業員側】
・モチベーションが上がらない
・重要性を認識できていない
・教育の効果がすぐにはでない
ひとつずつ解説します。
モチベーションが上がらない
従業員側の大きな課題は、リスキリングに向き合う従業員のモチベーションが上がらないことです。新しいことを学び習得するには、時間と努力、そして継続する強い意志が必要です。当然、相応のストレスがかかります。理解のスピードにも個人差があるでしょう。理解が進まない従業員のストレスは、決して小さくありません。
ストレスは、モチベーションを著しく低下させてしまいます。学びに向き合う従業員のモチベーションをいかに維持するのか、これはリスキリングの大きな課題です。学んだスキルを活かせる場を作る、そして評価に紐づけるなど、モチベーションを維持する工夫が重要です。
重要性を認識できていない
リスキリングの重要性を認識できていないことも、従業員側の課題のひとつでしょう。実施する担当者や担当部署、そして経営陣がリスキリングをどれだけ推進しても、対象となる従業員が重要性を認識できていなければ、思うような効果は望めません。
従業員にリスキリングの重要性を理解してもらうには、会社が全社的に取り組んでいくことを従業員と共有する必要があります。会社が組織として取り組む姿勢を示すことで、従業員の意識も高まります。意識の高まりは、重要性への理解と共に、リスキリングに取り組むモチベーションにつながっていくのです。
教育の効果がすぐにはでない
教育の効果がすぐにはでないのも、従業員側から見えてくる課題です。リスキリングに限らず、人材育成には時間がかかります。リスキリングを実施したからといって、すぐに効果がでる訳ではないのです。スキルによっては、習得が年単位になる場合もあるでしょう。
リスキリングの教育効果は、長いスパンで考える必要があります。ここを押さえずに効果ばかりを求めると、「リスキリングは意味がない」と、偏った考え方になりかねません。リスキリングには時間がかかることを社内で共有し、じっくり取り組める環境を整えましょう。同時に、リスキリングの効果を測定する施策も忘れてはなりません。
関連記事:リスキリングで何を学ぶ?自社に合った分野と学習方法の選び方を解説
リスキリングの課題を解決する方法
では、リスキリングの課題を解決するには、どうすればよいのでしょうか。ここではリスキリングの課題を解決する方法を解説します。
【リスキリングの課題を解決する方法】
・自社の現状分析を行う
・取り組みやすい環境を整備する
・従業員の主体性を尊重する
詳しく見ていきましょう。
自社の現状分析を行う
リスキリングの課題を解決するには、まず自社の現状分析を行いましょう。業界における自社の優位性やこれから向かうべき方向性、従業員が保有するスキルやスキルレベルの分析を行います。現状を分析することで、自社の課題や成長に必要な要素が見えてきます。自社の「強み・弱み」を洗い出すイメージです。
自社の現状が明確になれば、ブレのない事業戦略を立案することができます。この事業戦略に沿って、習得すべきスキルや知識のリスキリングを行っていくのです。
自社の現状分析は、リスキリングにかけられる時間や予算、育成スキルを持った人材の有無も明確にします。そこから、自社に合った取り組み方を考えていくことが重要です。
取り組みやすい環境を整備する
取り組みやすい環境を整備することも、リスキリングの課題を解決する方法のひとつです。それには、リスキリングに対する理解を全社的に深める必要があります。なぜリスキリングを行うのか、その目的と重要性を従業員にしっかりと説明しましょう。
目的と重要性を共有することで、リスキリングの対象となる従業員のサポート体制を構築することができます。これは、業務時間内に研修を実施する上で重要なことです。
他にも、リスキリングを行う時間に配慮したり、何らかのインセンティブを設けたり、継続的に学んでいける工夫が欠かせません。リスキリングの実施と取り組みやすい環境の整備は、「ワンセット」と考えておきましょう。
従業員の主体性を尊重する
先に述べた通り、新しいことを学ぶには相応のストレスがかかります。また、やらされ感の中でリスキリングに取り組んでも、モチベーションは上がりません。リスキリングを行う際は、従業員の主体性を尊重しましょう。
従業員の主体性を尊重するには、リスキリングの内容を説明し自ら手をあげてもらう方法があります。その他、従業員のキャリア形成とリスキリングの内容をリンクさせるのも方法のひとつでしょう。大切なことは、従業員自ら“学びたい”と思う意識の醸成です。
ただし、主体性を尊重しすぎては、リスキリングが先に進まなくなる可能性もあります。従業員の主体性を尊重しつつも、コントロールするのはあくまでも企業側ということを忘れないようにしましょう。
関連記事:リスキリングを導入する際のポイント
リスキリングの導入事例
ここからは、リスキリングを実施している企業の導入事例を紹介します。導入や課題解決の参考にしてください。
富士通株式会社
富士通株式会社は、デジタル人材不足の解消を目指し「ITカンパニーからDXカンパニーへ」を経営戦略として提唱。リスキリングへの教育投資を4割増加させ、人材育成に取り組んでいます。そのユニークな教育スタイルは、従業員自らが必要なスキルを選び研修を受けるというものです。
研修プログラムは、オンラインで展開。専門性の高いスキルや知識を提供することで、即戦力を育成しています。従業員のリスキリング意欲を高めるため、キャリアパスを可視化したり主要ポストの社内公募を行ったりしながら、従業員のモチベーション維持に努めています。
株式会社三菱UFJ銀行
株式会社三菱UFJ銀行は、変化の速いビジネス環境や多様化する社会に対応するため、従業員の「キャリア自律」の実現に向けてリスキリングに取り組んでいます。研修プログラムは、スキルや知識の習得だけではなく、見識や倫理観を高め、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進を目指す内容です。
また、全従業員を対象にしたeラーニングを実施。データ分析を中心とした、デジタル教育にも力を入れています。従業員のやる気を喚起するため、資格取得を推奨する「デジタルスキル認定制度」を導入。資格取得に成功した従業員には、社内の独自称号を付与してリスキリングに対する意識を高めています。
JFEスチール株式会社
JFEスチール株式会社は、データサイエンティストの育成を目的としてリスキリングに取り組んでいます。DXを推進することで、業界における競争力を高め持続的な成長を達成するというビジョンの実現を目指します。目標は、2024年度末までにデータサイエンティストを600人育成することです。
JFEスチールでは、データを蓄積し活用することがDXの本質と定義。データサイエンティストの確保が難しいことから、リスキリングによる自社内での人材育成に踏み切りました。社内に、データサイエンスプロジェクト部を設置。育成プログラムを構築し、従業員のレベルに合わせた教育を実施しています。
関連記事:人材育成とは/目的や方法、具体例を紹介
最後に
今回は、リスキリングの課題を企業側と従業員側から考察すると共に、課題の解決方法を解説しました。本文でも述べましたが、課題を解決するには自社の現状分析を行うことが重要です。
では、どのような方法で現状を分析すればよいのでしょうか。現状分析を自社で行うことは、不可能ではないでしょう。しかし、分析にかかる時間や正確性、分析ノウハウを考えれば、費用が発生しても専門の調査会社に組織サーベイを依頼するのがベターと言えます。
組織サーベイとは、従業員と組織の現在の状態を可視化するアンケート調査のことです。従業員のスキルをはじめ、会社の実情を定量的に可視化します。
リアルワン株式会社は、組織サーベイの専門会社です。第一線の専門家が監修する、「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」「360度評価」で会社の現状を様々な角度から分析します。実施にあたっては、適切なサーベイの選定から設計、実施、実施後のフィードバックまで、横断的なサポートが可能です。
リスキリングに取り組むために、自社の現状を把握したいとお考えの実施担当者の方は、リアルワンにご相談ください。