リスキリングに活用できる補助金と助成金~違いや導入ポイントを解説

ビジネス環境の変化に合わせて、「リスキリング」による人材育成を図る企業が増えています。ただ、リスキリングには費用がかかります。新しい業務に対応するスキルを習得するため、リスキリングを実施したいと考えてみたものの、費用の問題で踏み切れない企業も少なくないでしょう。

そのようなとき検討したいのが、「補助金」や「助成金」の活用です。では、リスキリングに使える補助金や助成金にはどのようなものがあるのでしょうか?本記事では、リスキリングに活用できる補助金と助成金を解説すると共に、両者の違いや活用のポイントを紹介します。

【本記事で得られる情報】

・補助金と助成金の知識
・補助金と助成金の違い
・リスキリングに活用できる補助金と助成金
・補助金と助成金をリスキリングで活用する際のポイント 

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

リスキリングにかかる費用

リスキリングには、様々な費用がかかります。はじめに、リスキリングにかかる費用を考えてみましょう。

【リスキリングにかかる費用】

・教材費(書籍代・参考書代)
・会場代
・研修費(講座受講料)
・講師代
・人的、時間的コスト

リスキリングを実施するには、学習用の教材が必要です。それには、「教材費(書籍代・参考書代)」がかかります研修会場を借りれば、「会場代」が発生します。さらに、外部に委託すれば、「研修費(講座受講料)」や「講師代」がかかるでしょう。

自社で教育プログラムを構築したり、学習環境を整備したりするには「人的・時間的コスト」が不可欠です。また、リスキリングに取り組む時間は業務を離れるため、生産性が一時的に下がります。これも、ひとつのコストです。

リスキリングは、大企業を中心に一定の割合で実施が進んでいます。しかし、多くを占める中小企業では、まだまだ進んでいないのが現実です。その理由は、ひとつではありません。しかし、「リスキリングにかかる費用」が進まない理由のひとつであることは間違いないでしょう。

その「リスキリングにかかる費用」を支援してくれるのが、「補助金」と「助成金」です。次項では、この補助金と助成金について詳しく見ていきます。

関連記事:リスキリングの課題とは?進まない理由と課題の解決方法を解説

補助金と助成金を分かりやすく解説

それでは、補助金と助成金について分かりやすく解説していきます。

補助金とは?

まずは、補助金を解説しましょう。

【補助金】

国や自治体が公益につながる事業の推進を目的として、適合する事業に対して資金面での支援を行う制度。企業が国や自治体に申請を行い、その取り組みが公益につながる事業として認められた場合にのみ支給される。

補助金の主な対象は、中小企業になります。申請や支給を管理するのは、経済産業省や中小企業庁などです。他にも、自治体や民間団体が公募する様々な補助金が用意されています。

尚、省庁や自治体が管理する補助金の財源には、公的な資金が使われています。

助成金とは?

次は、助成金を解説します。

【助成金】

国や自治体が労働環境の安定や雇用対策を目的に、「能力開発・雇用促進・労働環境の改善」などに取り組む企業に対して資金面での支援を行う制度。所定の様式に沿って申請を行い、要件を満たした企業には原則支給される。

「能力開発・雇用促進・労働環境の改善」などを目的とする助成金は、厚生労働省の管轄です。助成金の主な申請先は、都道府県の労働局が受付けて支給も行っています

尚、厚生労働省が管轄する助成金の財源は、企業が支払う雇用保険料になります(一部税金が使われる場合もあります)。 

補助金と助成金の違い

それでは、補助金と助成金の違いを6つの観点から整理してみましょう。

【補助金と助成金の違い】

補助金助成金
目的公益につながる事業推進
新規事業の創出・地域振興
労働環境の安定
雇用対策
主な管轄経済産業省・中小企業庁厚生労働省
支給金額数百万円~数億円数十万円~数百万円
支給条件審査で認められた場合に支給要件を満たせば原則支給
公募期間短い・一定期間長い・通年
リスキリングにおける位置づけ間接的(二次的・副次)直接的(一次的・主要)

補助金と助成金には様々な違いがありますが、最も注意しなければならないのは「リスキリングにおける支援の位置づけ」です。

補助金は、あくまでも新しい事業の創出や地域振興などを目的とした「開発や設備投資」に対して支給されるお金です。よって、リスキリングにおける補助金の位置づけは、間接的(二次的・副次)と言えます。

一方で助成金は、「労働環境の安定・雇用対策」という目的の中で「人材育成=リスキリング」に対して助成を行っており、リスキリングにおける助成金の位置づけは、直接的(一次的・主要)と言えるでしょう。

関連記事:リスキリングで何を学ぶ?自社に合った分野と学習方法の選び方を解説 

企業がリスキリングに活用できる補助金と助成金

ここからは、企業がリスキリングを実施する際に活用できる補助金と助成金を紹介します。

リスキリングに活用できる補助金

まずは、リスキリングに活用できる補助金を紹介します。紹介する補助金は、「ものづくり補助金」と「IT導入補助金」です。

ものづくり補助金

【ものづくり補助金】

中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更等に対応するため、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するもの。

ものづくり補助事業公式ホームページ

ものづくり補助金の正式名称は、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。この正式名称から分かる通り、ものづくり補助金は「ものづくり」に限定したものではありません

業種に関係なく、(サービス業・小売業・農業など)生産性の向上につながる設備投資であれば採択の対象になります。ただし、補助上限額や補助率は、申請枠そして従業員規模によって異なります。

公募要領は、短い期間で変わるため注意が必要です。2024年には、「省力化(オーダーメイド)枠」「製品・サービス高付加価値化枠」「グローバル枠」が新設されています。

参考サイト:ものづくり補助事業公式ホームページ~ものづくり補助金総合サイト

IT導入補助金

【IT導入補助金】

中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア・サービス等)の導入を支援する補助金。            

IT導入補助金2024年ホームページ

IT導入補助金は、ITツールを活用することによって、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進して業務の効率化を図り、生産性を向上させるために活用したい補助金です。

補助対象枠には、「通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)・インボイス枠(電子取引類型)・セキュリティ対策推進枠・複数社連携IT導入枠」があります。

申請を行うには、IT導入補助金事務局に登録されている「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組む必要があります(複数社連携IT導入枠を除く)。

対象となる事業者は、中小企業(飲食・宿泊・卸・小売・運輸・医療・介護・保育・製造業・建設業等)、そして小規模事業者(商業・サービス業・宿泊業・娯楽業・製造業等)です。

中小企業・小規模事業者、どちらに属するかは、業種ごとに設定された資本金や従業員数によって区分されています。

参考サイト:IT導入補助金2024ホームページ 

リスキリングに活用できる助成金

次に、リスキリングに活用できる助成金を紹介します。紹介する助成金は、「人材開発支援助成金」と「DXリスキリング助成金」です。

人材開発支援助成金

【人材開発支援助成金】

事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度。

人材開発支援助成金/厚生労働省ホームページ

人材開発支援助成金には、次のコースが設定されています。

人材育成支援コース
従業員に対して、知識や技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣認定のOJT付き訓練を実施した場合。また、非正規雇用者に対して正社員化の訓練を実施した場合、費用の一部を助成。

教育訓練休暇等付与コース
教育休暇制度を導入し従業員が休暇を取得、自発的に職業能力開発を受けた場合、費用の一部を助成。

人への投資促進コース
企業が、デジタル人材や高度な人材を育成する訓練、従業員が自発的に行う能力開発を実施した場合。また、柔軟な訓練を可能にする「定額制訓練:サブスクリプション型研修」を実施した場合、費用の一部を助成。

事業展開等リスキリング支援コース
新規の事業を展開する際、新たな分野で必要となる知識や技能の習得に向けた訓練を実施した場合、費用の一部を助成。

他にも、建設系企業の従業員が対象になる「建設労働者認定訓練コース建設労働者技能実習コース」、障害者の職業能力開発を目指す「障害者職業能力開発コース」があります。

参考サイト:人材開発支援助成金/厚生労働省ホームページ

DXリスキリング助成金

【DXリスキリング助成金】

都内の中小企業等がその雇用する従業員に対して、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する研修を実施した際の経費の一部を助成することにより、企業におけるDX人材の育成を促進する。

令和6年度DXリスキリング助成金募集要項

DXリスキリング助成金は、東京都内の中小企業などを対象に、東京都が提供する助成金制度です。急速に進むDXへの対応に向け、従業員のスキルアップや知識の習得を促進するのが目的です。

対象となる職業訓練は、教育機関が実施する研修やeラーニングなど。申請によって、経費の一部が助成されます。助成対象の事業者は、「小売業・飲食業・サービス業・卸売業」といった業種です。

デジタル技術で、新しい製品やサービスを創造したりビジネスモデルを変革したり、市場における競争優位性を確立したい中小企業にとって検討すべき助成金制度と言えるでしょう。

参考サイト:DXリスキリング助成金/東京しごと財団ホームページ雇用環境整備事業

リスキリングに補助金と助成金を活用するポイント・注意点

資料

ここまで、補助金と助成金について解説しました。では、どのような点を意識してリスキリングに活用すればよいのでしょうか。ここでは、補助金と助成金を活用するポイント・注意点を解説します。

【補助金と助成金を活用するポイント・注意点】

・補助金と助成金の多くは後払いになる
・支給までには時間がかかる
・事業期間を意識する
・法令は遵守する

補助金と助成金の多くは、「後払い」になります。申請する取り組みに着手する前には支給されないため、注意が必要です。また、申請してからお金が支給されるまでには時間がかかります。補助金は、2~3か月程度。助成金は、6か月~1年程度が目安です。

さらに、補助金と助成金の多くは、対象となる取り組みについて事業期間を設定しています。支給されるのは、その事業期間内に支出した経費だけです。「いつから・いつまで」といった事業期間は、必ず意識しておきましょう

最後に、当たり前のことですが、不正受給など法令違反はNGです。発覚すると、決定の取り消しやお金の返還、最悪の場合、詐欺罪で逮捕に至るケースもあります。法令は、必ず遵守しましょう

関連記事:リスキリングの導入事例5選~会社の成功事例と導入ステップを紹介

最後に

補助金や助成金は、上手に活用することでリスキリングを推し進めることができます。ただし、それにはまず従業員と自社の状態を把握することが重要です。

従業員が保有するスキル、そして自社の現在の状態が明確になってはじめて「何を学ぶ?=リスキリング内容」が決まります。補助金や助成金は、その学びを支援する方策のひとつなのです。

では、どのようにして従業員と自社の状態を把握すればよいのでしょうか。それには、組織サーベイの活用が有効です(組織サーベイについては、コチラの記事をご覧ください)

リアルワン株式会社は、組織サーベイの専門会社です。第一線の専門家が監修する、「従業員満足度調査(ES調査)」「エンゲージメントサーベイ」「360度評価で従業員と会社の状態を可視化します。導入にあたっては、サーベイの選定、設計、実施、アフターフォローまで、トータルにサポートしています。

リスキリングを導入する前に、従業員と会社の状態を把握したいとお考えの企業様は、リアルワンの組織サーベイをご活用ください。

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