ジョブ型雇用とは?メリット・デメリット(失敗事例)やメンバーシップ型との違い

産業構造の変化、そして多様な価値観を重視するDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の高まりは、雇用を取り巻く環境に大きな影響を与えています。加えて、「コロナ禍~withコロナ」の中で働き方も多様化し、その流れは今なお続いています。雇用のあり方や働き方が変化する中、注目されているのが「ジョブ型雇用」です。ジョブ型雇用とは何か、従来の雇用形態とどう違うのか。本記事では、ジョブ型雇用の特徴を解説すると共に、ジョブ型雇用が抱える課題について考察します。 

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

ジョブ型雇用の特徴をわかりやすく解説

それでは「ジョブ型雇用」について、その特徴をわかりやすく解説していきます。

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、企業が定義したジョブ(職務)に基づいて、そのジョブ(職務)を遂行するために必要な能力や実績を持つ人材を採用し契約を結ぶ雇用システムのことです。ジョブの内容(職務内容)は、ジョブディスクリプション(後述します)という文書にまとめられています。

ジョブ型雇用で最も重視されるのが、特定の職務に対する高い実務能力です。そのため、採用活動の段階から任せる職務を決め、適した能力や実績を持つ人材を募集します。「即戦力・スペシャリスト・専門性」が採用時のキーワード。ジョブ型雇用には、次のような特徴があります。

・企業が求める能力や実績を持つ人材を優先的に採用
・学歴や経歴よりも職務遂行能力を評価
・職務に対する成果によって報酬を決定

このように、ジョブ型雇用は職務に人材を当てはめるため、「仕事に人をつける」雇用形態といえます。

ジョブディスクリプションとは

ここで、ジョブディスクリプションについて解説します。ジョブディスクリプション(job description)とは、「職務記述書」と呼ばれ、担当する職務の内容を詳しく記した文書のことです。ジョブ型雇用では、職務遂行に必要な能力、そして求められる成果などがジョブディスクリプションにまとめられています。記載されるのは、次のような項目です。

・職務のポジション名
・職務の目的やミッション
・職務の内容と範囲
・期待される成果
・責任や権限の範囲
・必要となる能力や資格
・勤務条件(勤務地/勤務時間など)
・評価方法
・給与や待遇

ジョブディスクリプションの作成には、次のようなメリットがあります。

・職務に適した人材の採用要件が明確になる
・求める人材を採用しやすくなる
・公平な人事評価ができる
・スペシャリストの育成につながる
・業務が効率化し生産性が向上する

これは、後述するジョブ型雇用の「企業側」のメリットに通じるものでもあります。

メンバーシップ型雇用とは~ジョブ型雇用との違い

注目を集めるジョブ型雇用ですが、日本の多くの企業では「メンバーシップ型」という雇用形態が採用されています。メンバーシップ型雇用とは、人材を採用する際、職務内容や勤務地を限定せず採用し契約を結ぶ雇用システムのこと。新卒一括採用の総合職として採用し、ジョブローテーションや異動、転勤を繰り返しながら、中長期的に人材の育成を目指すシステムです。それは、「終身雇用・年功序列」を前提とした日本独特の雇用システムであり、「日本型雇用」とも呼ばれています。

メンバーシップ型雇用は、必要な能力や専門性が明確化されているジョブ型雇用とは違い、潜在能力や人間性を重視し、研修やOJTによって育成しながら幅広い知識や経験を積み上げ、ゼネラリストとしてキャリアアップしていきます。求められるものは、能力以上に組織への帰属意識。「仕事に人をつける」ジョブ型雇用とは正反対の「人に仕事をつける」雇用形態といえます。

ジョブ型雇用を導入する背景

先に見たように、日本の多くの企業では長くメンバーシップ型雇用を採用してきました。それは、メンバーシップ型雇用が、長期的かつ安定的に多くの労働力を必要とする高度経済成長期の雇用システムとしてマッチしたからに他なりません。しかし時代は大きく変化し、雇用システムのあり方も変化を余儀なくされています。

ではなぜジョブ型雇用なのか。きっかけは、2020年に経団連が「日本型雇用システム(メンバーシップ型雇用)の見直し」と「ジョブ型雇用の推奨」でジョブ型雇用を後押ししたことです。この提言によって、経団連に所属する企業を中心にジョブ型雇用を推進する流れが広がります。しかし、これだけが理由ではない時代の要求があったのです。

①国際競争力の底上げ
②DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の高まり
③終身雇用・年功序列の限界
④コロナ禍による働き方の多様化

グローバル化は留まることを知りません。開かれた市場経済の中で世界と伍していくには、人材開発そして競争力の底上げが待ったなしでしょう。そのためには、多様な人材の確保が必要不可欠。DE&Iの高まりは、ある意味必然なのです。さらに失われた平成期を経て、終身雇用・年功序列といった日本型雇用システムの限界が露呈。人材の流動性に対する議論が高まる中、コロナ禍に見舞われたのです。オンラインの普及に伴う働き方の多様化は、後戻りすることはないでしょう。働く環境の変化は、これまで漠然としていた「仕事・業務」という概念をより細分化した「職務」にフォーカスせざるを得ない状況を生んだのです。そこに親和性の高いジョブ型雇用が注目を浴びる。ジョブ型雇用の導入が進む背景には、このような理由があるのです。

ジョブ型雇用のメリット・デメリット

それでは、これまでを基にジョブ型雇用のメリット・デメリットを「企業側」と「求職者側」にわけて解説します。

ジョブ型雇用のメリット

まずは、ジョブ型雇用のメリットを解説します。

企業側

・必要な人材を効率良く採用できる
・スペシャリストを育成できる
・業務を効率化し生産性の向上が期待できる
・成果に応じた評価ができる
・採用のミスマッチを防止できる
・働き方の多様化に対応しやすい
・外国人を採用しやすい 

求職者側

・希望する仕事ができる
・決められた職務以外は行う必要がない
・専門性を活かせる
・給与アップが期待できる
・入社後のミスマッチが起こりに難い
・自分に合った働き方を選択できる

ジョブ型雇用のデメリット

次に、ジョブ型雇用のデメリットを解説します。

企業側

・ジョブディスクリプションの作成に時間がかかる
・求める人材を採用できるとは限らない
・人材の流出(転職・引き抜きなど)が懸念される
・新卒の採用が難しくなる
・チームとしてのつながりが薄くなる
・エンゲージメントが高まり難い

求職者側

・職務がなくなった場合は職を失う
・パフォーマンスが低い場合は解雇リスクが高まる
・専門性を高める自己研鑽を続ける必要がある
・自律的キャリアの意識が求められる

ジョブ型雇用の導入事例

メリット・デメリットがあるジョブ型雇用ですが、うまく導入している企業があります。ここでは、3社の導入事例を紹介します。

株式会社 日立製作所

日立製作所は、メイン市場を国内から海外に移す中で、海外拠点で働く外国人のスペシャリストや中途採用が増加。それに伴い、グローバルな人事制度としてジョブ型雇用を推進しています。2020年からジョブ型雇用による採用強化のため、全社員の職務経歴書を作成。2021年の4月にジョブ型の人事制度をスタートさせています。

日立製作所がジョブ型雇用を違和感なく導入できたのは、グローバル化に成功していたことが大きな理由です。 社員の過半数が外国人であることを考えれば、ジョブ型雇用の導入は必然だったのでしょう。加えて、在宅勤務や時短勤務、育児や介護との両立といった働き方の多様化への対応も、ジョブ型雇用を推し進める要因となっています。今後は、1on1ミーティングの導入や社員の自律サポートなど、働きやすさの実現とキャリア形成支援をセットにしてジョブ型雇用への完全移行を目指しています。

KDDI 株式会社

KDDIは、2021年から全総合職を対象に「プロを創り、育てる制度」として、KDDI版ジョブ型人事制度をスタートさせています。変化が大きく先が見え難い時代にあって、社員一人ひとりがプロフェッショナルとして価値を創造、成果を出していくことを目指しています。社員が能力を最大限発揮できる環境を提供し、会社として社員の成長を全面的にバックアップしています。

そのベースにあるのは、KDDI版ジョブディスクリプションです。「自律的なキャリア形成」「評価制度」「報酬制度」の中心にKDDI版ジョブディスクリプションを置き制度を運用。職務とスキルを明確に定義し、実力に基づいた評価・報酬で社員の成長を後押しします。社員自らが、大競争の時代を生き抜く力を身につけることが、結果的に組織の成長につながる。KDDI版ジョブ型人事制度の大きな目的です。 

株式会社 資生堂

資生堂は、社員の専門性を強化。「グローバルで勝てる企業」を目指し、2021年より国内の管理職・総合職を対象にジョブ型人事制度を導入。社員のレベル基準を「能力」から「職務」に移行することで、グローバルスタンダードに沿った格付けや処遇を可能にしています。

・専門性の領域を「ジョブファミリー」として明確化
・必要なスキルを「ファンクショナルコンピテンシー」として明示
・管理職はじめ一般職にも「ジョブグレード」を導入
・グレード判定の基準となる「ジョブディスクリプション」を明示

この4つを柱に、各部署の職務内容や専門性を明確に示すことで、社員一人ひとりの「キャリア自律」を目指すと共に、グローバルな市場経済における「生産性や専門スキルの差」という課題の解決に向け、ジョブ型人事制度を推進しています。

ジョブ型雇用の課題~失敗する理由

日本の雇用形態は、まだまだメンバーシップ型が主流です。ではなぜ、ジョブ型雇用の導入が進まないのでしょうか。ここでは、ジョブ型雇用の課題と共に、導入が失敗する理由を考察します。まず、ジョブ型雇用を導入する際の課題を考えます。

  1. 日本の雇用文化に合わない
    ここまで見てきたように、日本における雇用形態の主流はメンバーシップ型雇用です。ジョブ型雇用を導入するには、大幅な制度変更という大きなハードルがあります。
  2. 外部労働市場が発達していない 
    最近でこそ「雇用の流動性」に対する反応もあり、転職が活発になりはじめましたが、日本ではまだまだ同じ企業に長く勤務するという考え方が一般的です。必要な人材を外部(企業外)の労働市場に求める欧米とは違い、内部(企業内)で人材を再配置する日本企業にとって、ジョブ型雇用は導入し難い制度なのです。
  3. ジョブディスクリプションの作成が難しい
    ジョブ型雇用にとって、ジョブディスクリプションは必要不可欠なもの。しかし、その作成は簡単ではありません。様々な職務に対して、ジョブディスクリプションをいかに準備するのか。大きな課題です。
  4. 自律的キャリア形成への意識が薄い
    残念ながら日本のビジネスパーソンは、自律的キャリア形成に対する意識が薄いと言わざるを得ません。ジョブ型雇用を導入するには、まず自律的キャリア形成の意識を社員に根づかせる取り組みが必要です。

以上の課題から考えると、メンバーシップ型からジョブ型へのいきなりの制度移行は、失敗する可能性が高いといえます。では、どうすれば良いのか。ひとつの考え方として、「ジョブ型かメンバーシップ型か」の二項対立ではなく、2つの雇用制度を「併用」という形で導入を進めるのです。

例えば、ジョブ型の適用が難しい新卒採用の人材や若手人材はメンバーシップ型で成長を支え、会社の主力として成長した30代・40代の社員や中途採用者をジョブ型の対象者とするスタイルです。先を見通すことが難しい不確実な時代。将来起きるかもしれない“さらなる変化”をヘッジするためにも、ジョブ型とメンバーシップ型の併用は有効と思われます。

社員の「自律」がキーワード

ジョブ型雇用について、メンバーシップ型雇用との違いを見ながら解説してきました。導入するにあたって重要なことは数多くあります。しかし最も考えなければならないのは、高度経済成長期を経て現在に至るまで、一貫して変わっていない「相互依存」という企業と社員と関係性のあり方でしょう。メンバーシップ型雇用の根底には、この「相互依存」という考え方があります。ここを、「自律対等」という関係性に変えていくところからジョブ型雇用の導入は始まるのです。

そこで必要になるもの、それは社員一人ひとりの「自律的キャリア」に対する意識の高まりです。ジョブ型雇用の導入事例からもわかるように、社員の「自律」は重要なキーワードです。企業は社員の「キャリア形成」を支援し、社員は「自律」を意識したキャリアプランを描き自己研鑽を続ける。そこに「自律的キャリア」は醸成され、「自律対等」という関係性も育まれます。

社会は大きく変化しています。先が見え難い不確実な時代とはいえ、「変わらないことはリスク」でしょう。だから、変化を受け入れながら成長する。そのためには、まず「現在地」を知ることです。現在地を知るには、「従業員満足度調査」「エンゲージメント調査」「360度評価」といったサーベイが役立ちます。自社の現在地を知り、組織が社員と共に成長していくプロセスを、リアルワン株式会社が支援します。ぜひご相談ください。

※キャリア形成については、「キャリア形成とは?考え方やサポートの方法について」で詳しく解説しています。