人事評価制度とは?目的や作り方、事例を紹介

社員の働きぶりやパフォーマンス、そして成長を適切かつ公平に評価するのが「人事評価制度」です。社員のモチベーションを高め、会社が持続的に成長していくためにも、適切な人事評価制度の構築は極めて重要な課題です。本記事では人事評価制度を解説すると共に、その目的や作り方、そして企業の導入事例を紹介します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

人事評価制度とは

人事評価制度とは、社員の能力やスキル、会社への貢献を評価し、処遇に反映させるシステムのことです。同時に、社員一人ひとりの人材育成の促進や配置の決定、そして生産性の向上といった「人材マネジメント」の役割も担います。企業における人事評価制度は、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つで構成され、それぞれが連動することで成り立っています。ひとつずつ詳しく解説します。

等級制度

等級制度とは、「職能・職務・役割」といった分類で、社員に求める能力を階層化した制度です。等級ごとに必要な能力が明確化されているため、社員はキャリアアップしていく指針として活用できます。等級制度は、制度の内容によって「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」の3つに分類されています。

評価制度

評価制度とは、会社の行動指針に対する社員の実績や貢献度を評価する制度のことです。実際に社員を評価する制度であり、本記事(人事評価制度)の核になるものです。売上や利益といった「定量的な目標」。また、数値化できない「定性的な目標」を設定し、成果に対する評価を行います。

報酬制度

報酬制度とは、等級制度における社員の等級、評価制度における社員の評価をもとに、給与や賞与といった報酬の額を決定する制度です。報酬は、社員の仕事に対するモチベーションに大きく関わります。どのような条件で、どのようなレベルの報酬が発生するのか、社員に明示しておくことが重要です。

人事評価制度の必要性~その目的

会議

人事評価制度が必要な理由とは何でしょうか。その必要性を、目的の面から明らかにします。

処遇の公平性を担保する

人事評価制度を社員に示すことは、処遇に関する客観的な基準を示すことです。同時に、評価者による評価エラーを防ぐ効果もあります。公平な評価は社員のモチベーションを高め、仕事に対する取り組み方を前向きにさせるでしょう。人事評価制度は、処遇の公平性を担保するものなのです。

人材育成の促進

人事評価制度は、評価の基準を言語化しています。社員は、どのような行動が評価されるのか。また、どのようなスキルを身につけるべきなのか、明確に認識できます。明確な評価基準は、社員のスキルアップへの意識を高め、人材育成を促進させるのです。

適材適所の人材配置

人事評価制度の実施によって、社員一人ひとり能力やスキルを把握することができます。能力特性の把握は、適材適所の人材配置につながると同時に、配置転換を行う際にも役立つでしょう。適切に人材を配置することは、社員のエンゲージメントを高めることにもつながります。

企業業績や生産性の向上

人事評価制度は、企業のビジョンやパーパスをベースにして作られています。企業と社員が方向性を共有し、同じ目標に向かって業務を遂行することで一体感が育まれます。一体感は行動の原動力となり、企業業績や生産性を向上させるでしょう。その結果は新たな評価となり、それがまた業績や生産性の向上につながるという好循環となっていくのです。

評価制度の種類

では実際、どのような手法で社員を評価していくのか。ここでは、評価制度の種類を解説します。

目標管理制度:MBO

目標管理制度(MBO:Management by Objectives)とは、企業の各部門や個人がそれぞれ目標を立て、達成の度合いによって評価する制度のこと。その名の通り「目標によって管理する」手法のことで、ピーター・F・ドラッカーが1954年に提唱した組織マネジメント理論です。「定量的・定性的」な目標を設定し部門内で共有~評価するため、会社への貢献や成長を社員が実感しやすいというメリットがあります。

目標設定の際に注意することは、達成可能な目標を設定すること。レベルの高い非現実的な目標を設定すると、モチベーションが上がらず制度自体の意味がなくなってしまいます。達成可能な現実的な目標を設定し、クリアしていくようにしましょう。

目標と主要な成果:OKR

MBOと似た評価制度に、「目標と主要な成果」と訳される「OKR:Objectives and Key Results」があります。OKRは、1970年代にアメリカのIntelが採用し、GoogleやMeta(Facebook)といったグローバル企業も取り入れている評価手法です。MBOをより効果的にするため、「主要な成果:Key Results」に重きを置いています。

MBOが「定量的・定性的」な目標を設定し、100%の達成を評価するのに対して、OKRは「定量的」な目標を設定し、60~70%の達成で成功とする点に違いがあります(ただし目標レベルはMBOより高め)。また、生産性の向上を目的とする点では同じですが、MBOが人事評価で活用するのに対し、OKRは人事評価とは切り離して考える点でも違いがあります。

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、「高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性」を表す「コンピテンシー」を基準として評価する手法のことです。コンピテンシーモデルを定め、そのモデルから抽出した評価項目と社員の行動とを照らし合わせながら評価を行います。評価項目を具体的に「見える化」しているため社員も取り組みやすく、評価者のブレが小さくなるといったメリットがあります。ただし、導入するには相応の時間がかかり、定期的なメンテナンスも必要です。

コンピテンシー評価については、「コンピテンシー評価とは?書き方(例文あり)や評価基準を解説」で詳しく解説しています。ぜひ御覧ください。

360度評価

360度評価とは、上司や同僚、部下といった様々な立場の社員が、評価対象者を多面的に評価する手法のことです。一面的ではなく多面的な視点からの評価が集まるため、評価対象者は多くの気づきを得られ、評価に対する納得感が高くなります。また、自分の評価と周りの評価を照らし合わせることで、認識のギャップを埋めることにも役立ちます。ただし導入にあたっては、運用ルールをしっかり決める、評価協力者を慎重に選ぶ、サポートやフォローを忘れないといった対応が必要です。

360度評価については、「360度評価(多面評価)とは? 導入する目的やメリット、失敗しないためには」で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。 

失敗しない人事評価制度の作り方

面接

ここからは、失敗しない人事評価制度の作り方を具体的に解説していきます。

人事評価制度が失敗する理由

まず、人事評価制度がなぜ失敗するのかを考察します。人事評価制度が失敗する理由は、大きく2つの問題が考えられます。ひとつは、「制度」の問題。もうひとつは、「運用」の問題です。

① 制度の問題
最も大きな制度上の問題は、評価の目的や評価基準が明確になっていないことです。その原因の多くは、現状の把握がうまくいっていないことに起因しています。人事評価制度を構築するには、まず現状を分析し組織の実情を把握する必要があります。その上で、企業のビジョンやパーパスと紐づけた「理想の社員像」を設定し、評価の目的や評価基準を明確にしていくことが重要なのです。

② 運用の問題
これは、人事評価制度の目的や内容が理解されていないことが原因です。目的や内容の周知が徹底されていないと、どんなに素晴らしい人事評価制度であっても意味がありません。人事評価制度の導入自体が目的になってしまっては本末転倒。人事評価制度は、社員そして会社の成長のためにあるのです。全社的な説明会を開き導入意図をしっかりと伝え、社員が納得した上で導入~運用していく必要があります。

人事評価制度の導入方法

それでは、失敗しない人事評価制度の導入方法を解説します。

現状分析

最初にすべきことは、「現状分析」です。自社の現状を分析し実情を把握、課題を明確にします。分析は、具体的な数字をもとに分析する「定量分析」や、社員の生の声など数字では表せないものを分析する「定性分析」といった方法で行います。この段階で人事評価制度に反映させる経営理念、そしてビジョンやパーパスを再確認しておきましょう。

評価目的の設定

現状分析が終わったら、人事評価制度の目的を設定します。何のために人事評価制度を行うのか、その意図を明確にします。企業のビジョンやパーパスに紐づいた「理想の社員像=評価される人材像」を考え、社員に提示できるようにしましょう。それをベースに、人材育成に必要な「能力・スキル」、事業の効率化を目指す「生産性」、人材配置を最適化する「役割・行動」など、対象となる項目を目的に落とし込みます。

評価制度と評価基準の決定

次に、どのような制度で評価を行うのか、評価制度を決定します。また、人事評価を構成する「業績評価」「能力評価」「情意評価」といった「評価基準」も決定します。ここで大切なことは、「明確な言語化」です。次に解説する「評価項目」と連動させた明確な言語化が、評価基準をわかりやすくし社員にとって取り組みやすい制度となるのです。尚、評価基準についての詳しい解説は、コチラの記事を御覧ください。

評価項目の作成

評価基準の決定に連動して、「評価項目」を作成します。評価項目は、職種や立場に応じて細かく設定する必要があります。ここでも「明確な言語化」を意識し、評価する項目を作成しましょう。意識すべきは、社員のモチベーションアップです。社員が意欲的に業務に取り組み、納得感を持ってもらえるように、わかりやすい評価項目の作成を心がけましょう。評価項目の具体的な書き方については、コチラの記事を御覧ください。

評価ルールや処遇規定の決定

評価項目の作成が終わったら、各項目を何段階でどのように評価するのか、その「ルール」を決めていきます。5段階の評価が一般的ですが、業務内容に応じて設定します。中心化を避けるために、偶数段階(例えば4段階)を採用する方法もあります。また、評価結果を等級制度にどう反映するのか、報酬制度とどう連動させるのかといった処遇の規定も、この段階で決めておきます。適切な評価者も選んでおきましょう。すべて整ったら、決定を明文化します。

周知~運用

準備が完了したら、いよいよ社員に周知し運用を開始します。大切なことは、社員が人事評価制度を納得して受け入れ、成長に向かって取り組んでいくことです。導入意図や制度内容が十分伝わるように、丁寧に説明を行いましょう。社員の疑問には、明確に答えるようにしてください。社員の了解が得られたら運用開始です。

運用していくにあたっての注意点は、社員とのコミュニケーションです。評価結果のフィードバックを適切に行い、評価に対するフォローも必須です。社員がモチベーションを維持できるよう、「共に歩む」という姿勢が重要です。

人事評価制度の導入事例(サンプル)

ここからは、人事評価制度に取り組んでいる企業の導入事例を見ていきましょう。

株式会社メルカリ

株式会社メルカリでは、人事評価制度に「OKR」を導入しています。スピード感を持った事業展開、そして変化に対する柔軟な対応を念頭に、3ヶ月ごとのサイクルで評価を行っています。「グループ全体・事業部・部署・個人」それぞれに目標を割り振り、全社的に共有しながらOKRに取り組んでいます。

評価の軸には「達成するプロセス」と「バリュー評価」を設定。達成率以上に達成プロセスを重視すると共に、メルカリのバリューを実践できているのかを評価しています。3ヶ月という短いスパンで評価に向き合うことで、会社の現在のフェーズが社員に伝わり、チャレンジングなカルチャーを作ることに成功しています。

株式会社ディー・エヌ・エー

株式会社ディー・エヌ・エーは、約130名のマネージャークラスに対して、実名での「360度評価」を実施しています。360度評価は、通常無記名で行うのが一般的ですが、あえて実名にすることでマネージャーと部下との信頼関係の構築につながっているとしています。ただ、360度評価の目的は報酬制度への反映ではなく、評価結果のフィードバックが主な目的となっています。

評価内容の透明性が、マネージャークラスと一般社員の信頼関係となり、それが仕事へのモチベーションアップにつながっている好例と言えます。

人事評価制度が社員の「やる気」を促す

人事評価制度について解説してきました。見てきたように人事評価制度は、社員の処遇に直結しています。会社が求める成果を出した社員、成長が認められる社員に対して適切な処遇を与えることは、社員に「やる気」を促し「もっと頑張ろう」という意識を醸成します。社員の「やる気」は新たな成果を生み、さらなる成長につながるでしょう。この「プラスのサイクル」が人材育成を促進し、企業業績を向上させていくのです。

「プラスのサイクル」はさらに、社員の会社に対する満足度やエンゲージメントを高めます。人事評価制度は、社員の会社への定着をも促す重要なインセンティブになり得るのです。人材不足が叫ばれ、転職が当たり前になりつつある昨今。社員をどう定着させるのかという課題に対しても、人事評価制度は大きな意味を持つでしょう。このように多くの役割を持つ人事評価制度ですが、実施するには「人事評価制度の導入方法」でも解説したように、組織の現状分析が必要不可欠です。

リアルワン株式会社は、調査・評価の専門会社。「従業員満足度(ES調査)」「エンゲージメント調査」「360度評価」といった信頼性の高いサーベイで、企業様の現状分析をサポートします。組織の実情を把握し課題を明確にしたい企業様は、ぜひリアルワンの各種サーベイをご活用ください。