コンピテンシーとは?意味や使い方、能力やスキルとの違いについて

社員の成長を促し、生産性を向上させるマネジメントとして、「コンピテンシー」を導入する動きが広がっています。人事や採用、そして育成といった場面において、高い効果が期待できるコンピテンシーの活用ですが、「コンピテンシーってわかりにくい!」という声があるのも事実です。そこで今回は、「コンピテンシーを導入したい」と検討中の方に向けて、「コンピテンシーとは何か?」について解説します。

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

コンピテンシーとは

コンピテンシーとは何か。ここでは、コンピテンシーの意味と、その歴史・はじまりについて解説します。

コンピテンシーの意味

「コンピテンシー:competency」とは、一般的に次のように説明されています。

コンピテンシー

企業などで人材の活用に用いられる手法で、高業績者の行動特性などと訳されている。
出典:ウィキペディア

わかりやすく説明すると、「高いパフォーマンスを発揮する人材に共通する行動特性」のことです。人はそれぞれ、違った能力やスキルを持っています。それと同じように、人はそれぞれ、違ったコンピテンシーを持っているのです。

コンピテンシーの特徴は、高いパフォーマンスを発揮する人材の「成果」にだけフォーカスするのではなく、「どうして高いパフォーマンスを発揮できるのか」「なぜ成果をだせるのか」といった、成果の背景に注目すること。学歴や知識が同じでも、実際には高いパフォーマンスを発揮する人材もいれば、そうでない人材もいます。その「なぜ」にフォーカスすることで、高いパフォーマンスを発揮する人材の行動特性や思考法を分析し、「成果につながる特性」を明らかにしたものがコンピテンシーなのです。

このように、コンピテンシーは行動そのものではありません。行動につながる「考え方・価値観・動機・性格」といった要素(特性)に注目すること。そこが、コンピテンシーの大きな特徴です。

コンピテンシーの歴史・はじまり

コンピテンシーは、1970年代にハーバード大学のマクレランド教授(心理学)が、「知識・技術・人間の根源的特性」を含む広い概念として発表しました。マクレランド教授は、学歴や知識レベルが同じ外交官の業績に差が出るのはなぜかを研究。その結果、学歴や知識レベルと業績の間に相関関係はなく、高い業績をあげる者には共通するいくつかの行動特性があることがわかりました。

その後、多くの研究を経て「高業績者に共通する行動特性」を意味するようになり、コンピテンシーをモデル化し、人材のパフォーマンスを向上させる手法として定着しています。そして今では、日本でも多くの企業が導入する概念になっているのです。

コンピテンシーと能力やスキルとの違い

会議

コンピテンシーは、能力やスキルと混同されがちですが、まったく違う概念です。ここで、改めて整理しておきましょう。

「能力・スキル」とは、「人材が持つ専門的な技術」のことです。例えば、企画力や語学力、営業力や交渉力といったもの。これに対してコンピテンシーは、先に述べた通り行動特性のことであり、「能力やスキルを発揮する力」といえます。例えば、高い能力やスキルを持った人材がいるとしましょう。しかし、どれだけ高い能力やスキルを持っていても、行動に結びつかなければ成果は決して生まれません。このようにコンピテンシーは、「能力やスキルを活かし成果につなげる行動力」のことなのです。

コンピテンシーの理解を深めるため、「氷山モデル」を紹介します。氷山モデルとは、表面に見えている氷山の一部分と、見えていない海中の大きな部分でコンピテンシーを説明したものです。表面の見えている部分が「能力・スキル・知識・実績」といった顕在的な力。そして、海中の見えていない大きな部分が「価値観・行動習慣・適性・モチベーション」といった潜在的な力です。顕在的な力は、潜在的な力によって支えられています。

コンピテンシーは、目に見える顕在的な力だけを意識していては見えてきません。高い成果をあげるには、それを生み出す高いパフォーマンスがあり、その高いパフォーマンスには、それを生み出す潜在的な力が不可欠です。コンピテンシーを理解するには、そこを意識する必要があるのです。

コンピテンシーの使い方

面接

ここでは、コンピテンシーが企業のどのような場面で活用されているのかを解説します。

人事評価

人事評価である「コンピテンシー評価」は、コンピテンシーの活用方法として最もスタンダードなものです。コンピテンシーモデル(後述します)を人事評価にしっかり落とし込むこむことで、評価基準が明確になり、評価者による評価エラーや評価のブレを最小限におさえることができます。コンピテンシー評価については、「コンピテンシー評価とは? 書き方(例文あり)や評価基準を解説」で詳しく解説しています。ぜひ、ご一読ください。

採用面接

コンピテンシーは、採用面接でも活用されています。自社で活躍する人材を獲得するには、応募者のコンピテンシーを見極めることが重要です。自社で高いパフォーマンスを発揮する人材のコンピテンシーを明らかにし、そのコンピテンシーを基準に採用面接を実施します。入社後、高いパフォーマンスを発揮する人材の見極めが可能になると共に、面接担当者による採用のブレを防ぐことにもつながります。

人材育成/能力開発

コンピテンシーは、人材開発でも活用できます。コンピテンシーモデルを明確にすることは、「どのような考え方で、どういった行動をとれば成果をあげられるのか」を明確にすることです。人材育成や能力開発を通してコンピテンシーを浸透させ、成果につながる思考法や行動基準を共有します。コンピテンシーモデルを意識することで自身の課題が明確になり、課題の克服に向けた行動へとつなげていけるのです。

組織マネジメント

同じ組織であっても、部署や職務、役割によってコンピテンシーは異なります。ある職務では、課題解決能力の高い人材が成果をあげていたとしても、ある職務では傾聴力の高い人材が重要といったケースは良くあることです。部署や職務、役割ごとにコンピテンシーモデルを設定することは、適材適所で人材を活かし成果をあげていくことにつながります。このように、人材活用の最適化という組織マネジメントの上でも、コンピテンシーは有効なのです。

コンピテンシーモデルの例と作り方

様々な使い方があるコンピテンシーですが、ガギとなるキーワードがあります。それは、「コンピテンシーモデル」です。ここでは、コンピテンシーモデルついて解説します。

コンピテンシーモデルの種類

コンピテンシーモデルとは、コンピテンシーを洗い出し、実務に即して具体化した「お手本となる人材像」のことです。コンピテンシーモデルは、部署や職務、役割によって異なるため、それぞれの環境や条件に応じて作る必要があります。ここではまず、コンピテンシーモデルの種類について解説します。

コンピテンシーモデルには、次の3つの種類があります。

  1. 実在型
  2. 理想型
  3. ハイブリッド型

それぞれ詳しく解説します。

実在型

コンピテンシーモデル「実在型」は、実際社内にいる「高いパフォーマンスを発揮する人材」をモデルとして考えられたものです。実在型のコンピテンシーモデルには、次のようなメリットがあります。

  • 現実に即して設定できる
  • 行動特性をイメージしやすい
  • 社員の納得を得られやすい

ここで大切なことは、「再現性」です。コンピテンシーモデルを設定しても、再現性がなければ意味がありません。モデルの設定には、十分注意が必要です。

理想型

コンピテンシーモデル「理想型」は、その名の通り「企業が求める理想の人材」をコンピテンシーモデルに設定するものです。企業ビジョンやパーパス、事業戦略といったものから、求める人材要件を洗い出し、理想の人材像を設定します。社内に高いパフォーマンスを発揮する人材がいない場合に、有効な設定方法です。ただ注意すべきは、現実離れした人材像を設定してしまうこと。現実的かつ達成可能なモデル設定がポイントです。

ハイブリッド型

コンピテンシーモデル「ハイブリッド型」は、実在型と理想型を合わせたモデルのことです。実在型のモデルを設計し、そこに理想型のモデルの要素を付け加える形で設定します。実在型と理想型の良いところを取り入れ、不足部分を補完するモデルのため、高いパフォーマンスを発揮する人材にとっても学ぶべき部分が多くなります。ここから、3種類の中では最も優れたコンピテンシーモデルとされています。

コンピテンシーモデルの作成方法

では次に、コンピテンシーモデルの具体的な設定方法を解説します。

事前準備

コンピテンシーモデルを設定し、自社に合った形で活用していくには「事前準備」が必要です。まずは、コンピテンシーをどのように活用していくのかを明確にしましょう。そのためには、企業ビジョンやパーパス、そして求める人材を整理しておく必要があります。最初に方向性を決めることで、ブレがなくなりコンピテンシーモデルの設定もスムーズに進められます。

また、コンピテンシーは立場によって異なるため、部署や職務、役割ごとに高いパフォーマンスを発揮する人材を選んでおく必要があります。「高いパフォーマンスとは何を意味するのか」そして「何をもって成果とするのか」、その「定義」を共有することも忘れてはなりません。

ヒアリング調査

部署や職務、役割ごとに、高いパフォーマンスを発揮している人材に「ヒアリング調査」を行います。ヒアリングは、「状況・課題・行動・結果」の順で質問をしていくのがポイントです。

状況

  • 最近の取り組みで成果があがったこと
  • それに取り組んだときの状況

課題

  • 取り組むにあたって意識した課題や問題
  • 設定した目標や優先順位
  • どんな立場だったのか

行動

  • 成果をあげるためにとった行動
  • その行動をとった理由
  • 工夫したこと

結果

  • 結果はどうなったのか
  • その結果を受けて学んだこと

このように、事実に基づく「体験」を語ってもらい、何をどう考えて、どのように行動したのかを掘り下げていきます。5W1Hを意識して、具体的な内容を語ってもらいましょう。尚、今回はヒアリング調査を紹介しましたが、360度評価といった周囲へのアンケート調査を活用する方法もあります。

コンピテンシーの抽出

ヒアリング調査で明らかになった結果をもとに、コンピテンシーを抽出していきます。特に、平均的な人材と著しく異なる行動や考え方、そして行動との結びつきの強い要素を意識して抽出しましょう。

とはいえ、何もない中でコンピテンシーを抽出するのは難しいかもしれません。そんな時に役立つのが、コンピテンシーディクショナリーの「Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル」です。「Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル」は、コンピテンシーを6つの領域、20項目に分類したもので、コンピテンシーを抽出する際に役立ちます。

Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル
※コンピテンシーの領域 → コンピテンシーの項目

  • 達成/行動 → 達成思考、秩序・品質・正確性への関心、イニシアチブ、情報収集
  • 援助/対人支援 → 対人理解、顧客支援志向
  • インパクト/対人影響力 → インパクト・影響力、組織感覚、関係構築
  • 管理領域 → 他者育成、指導、チームワークと協力、チームリーダーシップ
  • 知的領域 → 分析的志向、概念的志向、技術的・専門職的・管理的専門性
  • 個人の効果性 → 自己管理、自信、柔軟性、組織コミットメント

「Spencer & Spencerのコンピテンシーモデル」は、ひとつの参考です。大切なことは、自社にあった形でコンピテンシーを言語化し抽出することです。

コンピテンシーモデルの設定

抽出したコンピテンシーに、自社の方向性をすり合わせて調整します。抽出したコンピテンシーは、現在に至る「これまで」には有効であったかもしれません。しかし、変化の激しい現在の環境、そして多様性が問われる時代背景の中で、企業が目指す「これから」を反映させる必要があります。自社の方向性とすり合わせ、ビジョンやパーパスを組み込みながら、「実在型・理想形・ハイブリッド型」に照らしたコンピテンシーモデルを設定していきます。

これでコンピテンシーモデルの設定が完了しました。あとは、コンピテンシーの使い方で述べた通り、様々なシーンで活用、そして運用していくことになります。

コンピテンシー活用の問題点

ここまで、コンピテンシーについて解説してきました。コンピテンシーの活用には、様々なメリットがあります。しかし、相応の問題点があるのも事実です。

  • 導入までに時間がかかる
  • 定期的に内容を更新する必要がある
  • 成果が出るとは限らない

見てきたように、コンピテンシーを抽出しモデル化するには多くの時間、そしてコストを必要とします。企業の規模や部署数にもよりますが、導入決定から運用まで1~2年を要する場合もあります。また、時代の変化と共にコンピテンシーモデルも変わっていくでしょう。定期的な内容変更は欠かせません。さらに、コンピテンシーモデルを真似るだけでは成果につながらないことがあります。目に見えない潜在的な部分にまで意識を向け、運用していくことが重要です。

コンピテンシー評価への展開

資料

コンピテンシーとは何か、そして高いパフォーマンスを発揮する人材の「成果につながる特性」を分析し、コンピテンシーモデルを設定していく流れを解説しました。コンピテンシーの活用には問題点もあるとはいえ、活用次第で組織を大きく活性化させることができます。その代表的な活用方法が「コンピテンシー評価」でしょう。

今回の記事は、コンピテンシーモデルの設定まででしたが、コンピテンシー評価については「コンピテンシー評価とは? 書き方(例文あり)や評価基準を解説」で詳しく解説しています。この記事ではさらに、「コンピテンシー・サーベイ(360度評価)」といった、コンピテンシーモデルの設定支援についても触れています。「ソシキビト」では今後も、コンピテンシーの活用について様々な角度から取り上げていきたいと考えています。

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