中間管理職は組織の中で、チームをまとめ目標に向かってメンバーを牽引する重要なポジションです。一方で、リモートワークが広がり「中間管理職は必要なのか?」といったネガティブな論調があります。しかし、労働環境が変化し多様化している今、中間管理職はその重要性を増しているのです。本記事ではその理由を考察し、中間管理職に求められる役割とスキル、またストレス対策と育成方法を解説します。
中間管理職(ミドルマネジメント)とは
管理職とは、企業が掲げる目標を達成するために部下を指揮・管理する職位です。「中間管理職(ミドルマネジメント)」は、上司と部下の間に挟まれていることから“中間”管理職と呼ばれています。経営層(トップマネジメント)の方針を、スキルを駆使しながら部下(ロワーマネジメント)を指揮・管理して「成果」を出すのが主な仕事です。
リモートワークが広がったコロナ禍。デジタルインフラの普及で情報共有が容易になり、「中間管理職の必要性」が問われる一面もあります。しかし、中間管理職の重要性はむしろ増しているのです。理由は、以下のような状況があるからです。
- リモートワークで社員が分散し、コミュニケーションや連携が難しくなっている
- 急速な変化に対応するため、今まで以上に素早い意思決定が求められている
- ビジネス環境の変化に合わせた新たな「場」作りが求められている
- 社員のセルフマネジメントを促す必要性が増している
労働環境の変化に柔軟に対応するには、中間管理職の存在が欠かせません。大切なことは、中間管理職の役割を環境に合った形で最適化することなのです。
中間管理職の役割・仕事内容
中間管理職の職務は多岐にわたります。ここでは、中間管理職の役割・仕事内容を解説します。
上長のサポート
上位の管理職である上長のサポートは、中間管理職の重要な役割です。上長の指示を理解し方向性を共有しながら業務をフォローしていきます。
マネジメント
中間管理職にとってマネジメントは、最も重要な仕事です。業務の進捗状況や予算、仕事の配分や人材の配置などをマネジメントし、チームとして目標達成を目指します。職場環境を整えたり、部下のモチベーションを維持するのも大切なマネジメントです。
人材育成
組織が成長し活性化していくためには、人材育成が欠かせません。中間管理職は、部下やチームに経験の機会を与え、指導や助言といった適切なサポートを行い成長を促します。
調整・パイプ役
企業は上司と部下、各部署と各部門が有機的に繋がることで成果を生み出します。中間管理職が調整・パイプ役となり、スムーズな連携を図ります。
プレイングマネージャー
中間管理職は、自らが培ってきた経験や知識を活かし、プレイヤーとして成果を上げる役割も求められます。
中間管理職に必要な能力・スキル
中間管理職に必要な能力・スキルとはどのようなものなのか。ここでは、組み合わせて語られるべき「スキルセット」を解説します。
コミュニケーション能力とファシリテーションスキル
中間管理職の役割を遂行する上で、「コミュニケーション能力」は必須のものです。ただし重要なことがあります。それは、コミュニケーションは双方向でなければ意味がないということ。単に会話を増やすというだけではなく、相手の話を傾聴し、理解し、良好な関係性を育むことが大切です。
そのためには、意見を活発に出してもらい建設的な議論で合意形成できるように導く「ファシリテーションスキル」が必要です。ファシリテーションは本来、会議を円滑に進める技法のこと。しかしその本質は、「意見を引き出し、話を聴いて、利害を調整し、まとめる」ことです。コミュニケーション能力とファシリテーションスキル。中間管理職にとって、なくてはならないスキルセットです。
リーダーシップとマネジメント能力
リーダシップは、ビジョンを明確に示してチームのモチベーションを喚起し、目標達成に導く能力のことです。目標を達成するには、様々な問題を解決する必要があるでしょう。そこでは、中長期的な視点が必要になります。
これに対してマネジメント能力は、目標を達成するための方策を決定しチームを管理する能力のこと。視点の時間軸もどちらかといえば短期的であり、現実的な視点で物事を考えることが必要です。似て非なるリーダーシップとマネジメント能力ですが、中間管理職はセットで求められています。
決断力と柔軟性
中間管理職にとって決断力は必要不可欠です。目標を達成するまでは決断の連続。何事も論理的に考えて決断する必要があります。それと同時に、状況に応じて柔軟に変化することも求められます。ビジネス環境は日々変化しています。変化に対応していくには、取り巻く状況とのバランスをとりながら軌道修正する柔軟性が必要です。中間管理職は、決断力と柔軟性を合わせ持つ必要があるのです。
情報を収集・分析し活用する能力
意思決定するため、また方策を円滑に進めるため、そして状況に応じて修正するためには、情報を収集し分析する能力が必要です。危機を察知したり、いち早く課題を発見するにも情報の収集・分析が欠かせません。ただし、収集・分析した情報は、活用してこそ意味を持ちます。インプットしたらアウトプットする。情報を収集・分析し活用する能力が求められるのです。
人材育成能力とジョブアサイン能力
中間管理職は自らをサポートする人材、また次代を担う人材を育成しなければなりません。部下に仕事を任せて成長の機会を与えます。部下が育ってきたら、適材適所で仕事を振り分ける「ジョブアサイン」を行います。中間管理職は、部下がやるべき仕事はやらない。人材育成能力と共にジョブアサイン能力が必要です。
中間管理職の板挟みによるストレス対策
中間管理職は、上司と部下の板挟みになりストレスを抱えやすい立場です。仕事量の多さや責任の重さ、目標達成に対するプレッシャーも加わり、適切な対策を講じないとストレスフルな毎日を過ごすことになりかねません。ではどのような対策をとれば良いのか。
- 職場環境を改善する
- 定期的に1on1ミーティングを行う
- 適切な仕事の配分を行う
- 業務の効率化を進める
- 仕事量に合った評価制度を構築する
- 専門家に相談できる体制を整える
以上のような対策が考えられます。本人も完全主義にならず、仕事を抱え込み過ぎず、任せるところは任せる心がけが大切です。社外に相談できる仲間を持つことも効果的です。
カウンセリングの世界では「話す」は「離す」と言われます。話すことで、悩みを離すことができるというたとえです。実際、誰かに話すだけでスッキリするものです。まずは、気軽に話せる誰かを見つけること。自分でできるセルフケアです。
中間管理職の育成方法
中間管理職の育成には、コミュニケーションに関するトレーニングと多面的な評価が必要です。ここでは、「アサーション」と「360度評価」について解説します。
アサーションを学ぶ
アサーションとは、自分と相手の価値観を尊重しながら、相手を傷つけることなく自分の意見をしっかり伝えるコミュニケーションスキルです。上意下達という一方通行のコミュニケーションではなく、お互いの関係性を重視した自他尊重のコミュニケーションといえます。その効果は次の通りです。
- コミュケーションが活性化する
- 社員間の信頼関係が向上する
- 頼み方や断り方が上達する
- メンタルヘルス対策やハラスメント防止に役立つ
- 取引先や顧客とも対等な立場を維持できる
アサーションは指示や決断を多く行う中間管理職が、適切なマネジメントを行うために身につけておきたいスキル。育成する上で、学ぶ意味は大きいと言えます。
360度評価の導入
360度評価とは、上司や同僚、部下といった様々な立場の社員、またケース次第では顧客や取引先まで巻き込み、評価対象者を多面的に評価する手法です。従業員1,000人以上の企業では46.1%の企業が導入し(日本経済新聞調べ)、最近は中小企業でも導入が進んでいます。
- 多面的な視点からの意見が集まり多くの気づきを得られる
- 自己評価と周囲の評価をすり合わせることで認識のギャップを把握できる
以上のようなメリットから、中間管理職を対象に実施が進んでいます。前述の通り、労働環境が変化し中間管理職の重要性は増しています。360度評価を導入し多面的な視点からのフィードバックやアドバイスが得られる環境を整えることは、中間管理職を育成するために効果的な方策です。中間管理職の主体的な意識改革・行動改革に繋げるためにも導入が望まれます。
最後に
多様な人材を受入れる「ダイバーシティ」が広がり、企業のマネジメント環境は大きく変化しています。労働市場では雇用の流動性が叫ばれ、新しい価値を生み出す動きは今まで以上に加速するでしょう。女性やシニアの活躍推進はもとより、多様な価値観を受入れていくことは企業の発展にとって避けて通れません。
このような状況の中で、重要になるのが「インクルージョン」です。インクルージョンとは、企業内の多様な人材に機会が平等に与えられ、お互いの個性や価値観、能力や経験を認めあい活かしあうことで一体感が生まれている状態です。ダイバーシティが多様性を受入れることなら、インクルージョンは多様性を活かす考え方です。
ダイバーシティとインクルージョンを自社に合った形で最適化し、一体感ある組織を作っていくのが中間管理職にほかなりません。今まさに、新しい時代の中間管理職が求められているのです。