360度評価はもう古い?効果的な運用方法やメリット・デメリットを解説

360度評価とは、上司や部下・同僚・別部門の社員などのさまざまな立場の従業員が、一人の社員を評価する制度です。

“上司が部下を評価”する従来の方法とは異なり、役職や所属に関わらず多面的な意見を取り入れることで、客観的かつ公平性の高い評価が可能となります。

組織にとってメリットの多い評価制度ですが、導入を躊躇する企業が多いのも事実。その原因として挙げられる代表的な意見が「日本企業には合いそうにない」「検索してみると失敗例が多く見られる」「360度評価は古い制度なのでは?」といったものです。
参考記事:360度評価の失敗例について

しかし結論から言うと、360度評価は現代の日本でも活用できる評価制度です。この記事では、主に以下の3点を主軸にして360度評価について紹介しています。

▼本記事で得られる情報

・360度評価の歴史とその有効性
・日本企業の導入率
・360度評価のメリットとデメリット

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

360度評価の歴史とその有効性

オフィス街

360度評価が初めて日本で取り入れられたのは、1970年頃だといわれています。日本での初導入から50年以上が経過していることが原因で「360度評価は古い」「取り入れても意味がない」と感じられるのかもしれません。

しかし現代において、制度の運用を成功させている企業は数多く存在します。この章ではまず、360度評価がどういった経緯で日本に根付いていったのか、制度の発祥と歴史について紹介していきます。

1:日本で注目され始めたのは1990年頃

360度評価の起源はアメリカの人事評価システムです。日本での初導入は1970年頃ですが、本格的に注目されるようになったのは1990年代のバブル崩壊以降となります。

バブル崩壊以前の日本企業では勤続年数が給与に直結していました。しかしバブル崩壊以降、アメリカにならい成果主義を取り入れる企業が増加。人事評価のスタンダードが急速に変化したことで、数字を追求するあまり個人主義に走る社員が増え始めました。

その結果、組織全体の生産性が低下するといった問題が生じ始めたのです。そうした問題を解決するために、アメリカで実績を上げていた360度評価に注目が集まり始めました。

2:2010年頃からメディアでも話題に

2000年代に入ると自動車メーカーや電機メーカー、総合商社など、業界を代表する大手企業も導入・運用を開始しました。2008年のリーマンショックで多くの企業が弱体化してからは、組織の立て直しと強化のための手法としても活用されるようになります。

その後2010年頃に日経ビジネスやプレジデントをはじめ、さまざまなビジネス系のメディアで取り上げられるようになり、知名度が飛躍的に向上。多くの日本企業で導入・運用が試みられるようになりました。

日本企業の導入率は上昇傾向

成長

日本企業の導入率は「2割程度」といわれています。ただし、これはあくまで業界・規模を問わず、日本の全企業を対象にした場合の数字です。

大手に限定すれば既に4割程度の企業が導入を進めており、なかでも人材強化に注力している企業はより高い導入率となっています。

導入率向上の要因1「管理職の強化」

導入率向上の主な要因は、管理職の強化を図ることが、多くの企業で喫緊の課題となっているからです。

若手社員の価値観の多様化、さまざまなバックグラウンドを持つキャリア採用者の増加、働き方改革の推進に伴う仕事の質向上など、年々マネジメントの難易度が高まっています。

360度評価を導入するとさまざまな立場の従業員から評価されるため、管理職は自身の強みと弱みを客観的に把握できるようになります。

さらに日頃から「部下に評価されている」という意識を持つことで、自己改善のきっかけが数多く得られることもメリットのひとつです。その結果、管理職は自身のパフォーマンスやマネジメントスキルの向上を図ることができます。

関連記事:360度評価はなぜ管理職の強化に役立つのか?

導入率向上の要因2「心理的ハードルの低下」

360度評価の導入を検討する企業の多くが、最初は「360度評価は人事評価の手法のひとつ」という先入観を持っています。

しかし、360度評価には「人材育成手法」としての側面もあります。それを理解することで「一度、人材育成を目的に運用してみよう」と、導入に対する心理的ハードルが下がる企業は非常に多いです。

この点も、近年において日本企業で導入が進んだ理由となっています。

360度評価のメリットとデメリット

360度評価が日本で取り入れられたばかりの黎明期とは異なり、現在はメリットとデメリットが明確になっています。

360度評価のメリットについて正しく知るとともに、デメリットを知ったうえでリスクヘッジを行うことが、導入・運用成功への近道となります。

360度評価のメリット

主なメリットは以下の3つです。

  1. 客観的かつ公平な評価が可能になる
  2. 社員が自分自身の改善点に気づける
  3. エンゲージメントの向上につながる

1.客観的かつ公平な評価が可能になる

上司からの評価や指摘だけだと「この評価は腑に落ちない」という反発につながりかねませんが、複数の社員から同じ評価・指摘を受ければ評価に対する納得感が高まります。

客観的かつ公平な評価によって社員の適正やスキルが明確化されるのも大きなポイント。適材適所の人材活用が可能になり、社員と組織の両方に大きなメリットをもたらすからです。

2.社員が自分自身の改善点に気づける

さまざまな立場の社員からのフィードバックによって、自分の長所や短所が可視化されることで、自己改善のきっかけになることもメリットのひとつです。

上司にとってもメリットがあり、たとえば自分の視点からだけでは判別できなかった部下の長所や短所に気づけることで、育成方針の改善などに役立てられます。

3.エンゲージメントの向上につながる

社員が「自分は正しく評価されている」と感じることで、エンゲージメントの向上が見込めます。さらには「自分は評価されるだけではなく、評価する側でもある」という認識によって、会社が自分の意見を尊重してくれるという感覚を醸成することも可能です。

エンゲージメントが高まると生産性の向上、社員の成長促進、離職率の低下など、会社に数多くのメリットをもたらします。

360度評価のデメリット

この項目では2つのデメリットと、それらに対するリスクヘッジの方法について解説しています。

  1. 社員の業務量が増加する恐れがある
  2. 評価経験の少ない社員により評価の偏りが生じる可能性がある

1.社員の業務量が増加する恐れがある

360度評価を導入すると、現場の社員に「他者の評価」という新たな業務が発生します。突然、それまでに経験したことのない業務を手がけるとなれば「なぜ人事の仕事を現場に押し付けるのか」といった反発が生まれるのも当然です。

この問題の対応策は、360度評価の実施目的やスケジュールを事前に周知することです。あわせて質疑応答の機会も設ければ、実施目的や意義について社員の納得感が一層増すでしょう。

2.評価経験の少ない社員により評価の偏りが生じる可能性がある

初めて360度評価を導入する企業では、ほとんどの社員が他人を評価することに慣れていません。この問題への有効な対策は、評価方法についての研修を実施することです。

多くの360度評価では、5段階評定とフリーコメントによる評価が取り入れられています。そのため、特に部下に対しては「被評価者の成長を促すコメントの徹底」「誹謗中傷だと捉えられる表現の禁止」など、評価の客観性・公平性の担保につながる研修を行いましょう。

上司に対しては、部下からの評価の正しい捉え方を念入りに伝えるようにしてください。5段階評定による点数や、コメントの内容が上司の能力を決定づけるものではないと理解してもらうことが大切です。

360度評価に関するよくある質問

Q1.360度評価の導入・運用について実際の事例を知りたい

下記URLに、360度評価の導入・運用事例を紹介した記事が掲載されています。

360度評価の事例・担当者インタビュー

どの企業も実名を公開したうえで事例を紹介しています。ご自身の企業の業種や会社規模などが近しい例を参考にしてみてください。

Q2.360度評価を導入したいが、何から手をつけるべきかわからない

360度評価を導入する際、自社だけですべてを完結しようとすると一気に導入のハードルが高くなるので注意が必要です。

導入と運用に成功している企業の多くは、360度評価の専門家によるサポートを受けています。リアルワンのようなコンサルティング会社を上手に活用しましょう。

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まとめ

長きにわたって360度評価の導入・運用に関する試行錯誤が行われてきた結果、現在はメリットとデメリットが明確化され、関連情報も多く出回るようになりました。

しかし、ネガティブな情報はポジティブな情報を上書きしがちです。「やはりリスクの高い制度なのか」「今の日本に合わない古い制度だ」など、導入を躊躇してしまうのも無理はありません。

デメリットや失敗例“のみ”に着目せず、失敗例を踏まえた対策を行うことを意識しましょう。そして数ある成功例を参考に「自社ならどういった導入・運用をするべきか」を模索しつつ、効果的な360度評価の運用につなげてください。