360度評価の導入企業を事例と共に紹介。「失敗例・成功例」から見えるポイントとは

従業員の行動や能力を、「上司・部下・同僚・他部署の従業員」といった様々な立場の協力者によって評価するのが「360度評価」です。その効果は理解しつつも、”いざ導入”となるとどのサービスを利用すべきか、本当に効果はあるのか、など最終判断に迷われている人事担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は導入の判断材料としていただきたく、導入企業の事例を集めました。それぞれの企業が360度評価をどのような目的で導入し、どのように運用しているのか?失敗と成功の明暗を分けるものとは?本記事が、導入に向けての一助となれば幸いです。

本記事のポイント

・360度評価の導入率

・360度評価を導入する企業の事例、および失敗例・成功例

・事例から見えてくる360度評価で失敗しないポイント

・360度評価の注意点とリスク               

この記事を監修した人
青山 愼
青山 愼

立命館大学経済学部卒業。早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得。在学中に、「組織学習」や「個人の知の獲得プロセス」に関する研究を経て、リアルワン株式会社を設立。企業や組織が実施する各種サーベイ(従業員満足度調査・360度評価・エンゲージメントサーベイ等)をサポートする専門家として活動。現在は累計利用者数が100万人を超え、多くの企業や組織の成長に携わる。

360度評価の導入率は?注目される理由と共に解説

企業の導入事例を紹介する前に、360度評価の導入率と注目される理由を解説します。

企業における360度評価の導入率

企業全体の6割近くが360度評価を導入」。これは2022年、株式会社シーベースが241社を対象に行った調査の数字(※)です。従業員が多くなるほど導入率が高くなり、従業員数5,000人以上の企業では、7割弱が「導入済み」と回答しています。

このように、360度評価が注目される背景には2つの理由があります。ひとつは、主観が入りやすい上司の一方的な評価ではなく、従業員の強みを伸ばす客観的かつ公平な評価を行うため。そしてもうひとつが、働き方の多様化により、上司だけでは把握できなくなった従業員の行動や特性を正確に評価する必要があるためです。

省庁でも導入が進む360度評価

360度評価の導入は、省庁でも進んでいます。財務省では、課長以上の管理職を対象に360度評価を実施しています。また、総務省や経済産業省でも導入済みです。360度評価は各省庁の管理職職員にとって、自身のマネジメント力を見直す良いきっかけとなっています。 

360度評価を導入している企業の事例を紹介

それでは、360度評価を導入している企業の事例を紹介します。

導入企業各社は、企業文化や社風、各企業を取り巻く状況がそれぞれ違うため、360度評価を自社に合った形で運用しています。その点を意識しながらご覧ください。

企業の導入事例5選

1.トヨタ自動車株式会社
2.アサヒビール株式会社
3.アイリスオーヤマ株式会社
4.株式会社ディー・エヌ・エー
5.ヤマト運輸株式会社

各社、詳しく見ていきましょう。

1.トヨタ自動車株式会社

導入目的:管理職の意識改革や行動変革
評価対象者:関連企業を含めた課長級以上の管理職

運用方法
「人間力」に重きを置いた評価基準で設問を構成し、社外を含めた十数人で対象者の評価を「聞き取り」という形で行っています。あえて口頭による「聞き取り」にしたのは、評価者の本心を引き出すことにこだわったからです。評価結果を管理職の昇格や降格、任命に活用し、能力以上に人間性を重視する意識改革や行動変革を促進しています。

2.アサヒビール株式会社

導入目的:様々な「気づき」の促進
評価対象者:部長・課長・支社長・工場長など

運用方法
大きな特徴は、異動に関する人事評価には活用していないことです。10人程が評価者となり、各設問を5段階評価で回答する方法を取り入れています。フィードバックは守秘義務を厳守し、安心して回答できる環境が整っています。実施後はリーダー同士が集まり、フィードバックをもとにミーティングを行うことで多くの気づきと自己変革のアクションプランへつなげています。

3.アイリスオーヤマ株式会社

導入目的:人事の公正化
評価対象者:パート・契約社員を含む全従業員

運用方法
15人程度の評価者が、計12問で構成された設問を6段階で評価し、社長や会長を含む全従業員の「昇進・昇格・昇給・降格」の判断材料としています。守秘義務が徹底しており、評価に偏りがありません。外部委託で点数化した「等級内・部門別・総合」順位をフィードバックし、下位10%の従業員には「イエローカード」で警告。従業員の自己成長を喚起しながら、人事の公正化に努めています。

4.株式会社ディー・エヌ・エー

導入目的:マネージャーとメンバーの関係性強化
評価対象者:全マネージャー

運用方法
最大の特徴は、5項目の設問を「記名式」で評価することです。記名式によって、「誰にどういう評価をされたのか」が明確になり、マネージャー自身の課題発見・改善を早めることに成功していますそれと同時に、指摘した評価者にも責任が生じ、自身を見直すきっかけになっています。素直な意見を伝える中で、マネージャーとメンバーの関係性強化につながった好例といえるでしょう。

5.ヤマト運輸株式会社

導入目的:人材育成
評価対象者:パート含めた全従業員

運用方法
同じセンターに所属する7~10名のセールスドライバー同士が、お互いの悪い点を指摘するのではなく、良い点を伸ばし、足りない点を補うといった形で評価を行っています。評価結果は上司から対象者にフィードバックされ、自己理解の促進や人材育成といった領域で活用されます。セールスドライバーの成長は、自社へのエンゲージメントを高めると共に、提供するサービスの充実化にもつながっています。

>> 360度評価の導入と運用については「コチラ」の記事もご覧ください。

360度評価の失敗例とその対策

360度評価の失敗と成功を分けるものは何でしょうか。答えの手掛かりを事例から考察します。まずは、失敗例とその対策を見ていきましょう。

360度評価の失敗例5選

1.実施目的が事前に説明されていない
2.費用対効果が見合わない
3.フィードバックやフォローが行われていない
4.評価結果を人事考課に反映させている
5.設問数が多すぎる

それぞれ詳しく解説します。

1.実施目的が事前に説明されていない

360度評価を何のために実施するのか、その目的を従業員に説明していないケースです。実施目的に対する従業員の理解が進んでいない場合、評価すること・評価されることに抵抗感を持たれたり、偏った評価になったりする恐れがあります。

対策
評価対象者や評価協力者だけではなく、全従業員に対して360度評価の実施目的を説明する必要があります。内容や実施方法、活用方法といった制度の詳細を十分説明した上で、全従業員が同じ方向を向いて取り組んでいくことが不可欠です。

2.費用対効果が見合わない

360度評価を実施したものの、成果がすぐにでないため、短期的に「失敗」と結論づけてしまうケースです。こういったケースでは、どうしても費用ばかりに目がいき成果を急いでしまいがちです。あまりにも早急に成果を求められると、従業員はモチベーションを低下させてしまいます。

対策
何事も成果をだすには時間がかかります。それは、360度評価も同じです。360度評価の導入は、人材育成のための先行投資です。中長期的な視点を企業全体で共有することが重要です。

3.フィードバックやフォローが行われていない

360度評価の実施後「やりっぱなし」で、フィードバックやフォローが行われていないケースです。評価結果の受け止め方次第では、離職につながりかねません。実施自体が目的化すると、コミュニケーション不全をはじめ組織に様々な弊害を引き起こします。

対策
実施後は、評価対象者に対して必ずフィードバックやフォローを行いましょう。評価結果のフィードバック、そしてフォローがあってこそ評価対象者の成長につながるのです。実施とフィードバック・フォローはワンセットです。

4.評価結果を人事考課に反映させている

360度評価の結果を人事考課に反映させた結果、実態とかけ離れた評価が行われてしまっているケースです。こういったケースの場合、社員間の忖度や相性の悪い従業員の評価を意図的に低くするといった行為が起こってしまいます。評価結果の人事考課や給与への紐づけは、余計なバイアスを引き起こします。

対策
評価に対する従業員のバイアスを防ぐためにも、評価結果を人事考課や給与に反映することは控えた方がベターです。評価結果をどのように活用するのか、「活用範囲」を明確にしておきましょう。

5.設問数が多すぎる

360度評価の設問数が多すぎるため、評価に時間がかかり従業員の負担が増してしまうケースです。こうなると、評価を適当に済ませてしまったり、単なる流れ作業で終わらせたりする従業員もでてきてしまいます。また、偏った設問、誘導するような設問も従業員のやる気を低下させる原因になります。

対策
多くの従業員は、360度評価に取り組むことに慣れていません。評価を行う従業員の立場に立って評価項目を決定し、適切な設問数で負担を軽くします偏った設問や誘導するような設問は避けましょう。

360度評価の成功例

それでは、360度評価の成功例を見ていきましょう。

360度評価の成功例3選

1.従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まる
2.自分を客観的に把握できるようになる
3.組織課題が明確になる

詳しく解説しましょう。

1.従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まる

従業員一人ひとりが評価に関わり、自分の意見が企業の運営に反映されるという360度評価の特性が活かされ、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まるケースです。360度評価の目的が共有された環境は、評価することへの肯定感を醸成します。公正な評価は従業員の不満を解消し、仕事に対するモチベーション、企業に対するエンゲージメントを高めるのです。

2.自分を客観的に把握できるようになる

他者評価と自己評価の違いを目にすることで、自分を客観的に把握できるようになるケースです。360度評価は、対象者の評価と共に自己評価も行います。自分を客観視できる機会は少ないものです。360度評価の実施は、周りとの認識ギャップに気づく良い機会となるでしょう。思い込みや間違った認識の払拭、そして自分をより的確に理解することにつながるのです。

3.組織課題が明確になる

360度評価で得られた多面的なデータによって、内包する組織課題が明確になるケースです。360度評価で把握できるのは、従業員の課題だけではありません。普段は目に見えない、企業全体が持つ課題や傾向についても把握することができます。組織課題を把握することで、課題解決のアクションプランや人事戦略の策定に役立てることができるのです。

360度評価で失敗しないポイント

360度評価の失敗例と対策、そして成功例を見てきました。ここまでを踏まえた上で、360度評価で失敗しないポイントを整理してみましょう。

360度評価で失敗しないポイント5選

1.従業員に対して360度評価の理解を促進する
2.従業員の不安を解消する
3.適切な評価協力者を選任する
4.スケジュールを明確にする
5.専門の調査会社に依頼する

それぞれ詳しく解説します。

1.360度評価に対する従業員の理解を促進する

ここまで見てきたように、360度評価に対する従業員の理解なくして成功はあり得ません。研修会を開くなどして十分な説明を行い、納得感を持って360度評価に取り組んでもらえるように配慮します。360度評価自体についてはもちろん、導入する目的、評価基準、評価結果の活用範囲などに対する理解を深めることが失敗を防ぐポイントです。

2.従業員の不安を解消する

自分を評価されること、あるいは他者を評価することに不安を感じる従業員は多いものです。さらに、匿名性は守られるのか、従業員同士の関係性は悪化しないかなど、実施にあたっては不安がつきものでしょう。従業員の不安を解消することは、360度評価の成否に直結する重要ポイントです。従業員の心理的安全性の確保という課題を必ずクリアしておきましょう

3.適切な評価協力者を選任する

対象者を評価する「適切な評価協力者」を選任することも、360度評価で失敗しない大切なポイントです。360度評価の設計や導入プロセス次第では、「忖度や悪意」といったバイアスが入る恐れがあります。匿名性を担保するのはもちろんですが、適切な評価協力者を選任することが極めて重要です。どのような基準で何人の評価協力者を選ぶのか、360度評価の導入目的を踏まえ、従業員が納得する方法で選任する必要があります

4.スケジュールを明確化する

360度評価の実施スケジュールを明確化することも、失敗を防ぐことにつながります360度評価を「どの時期に、どのようなサイクルで行うのか」といったスケジュールの明確化が、従業員の納得感を高めるのです。スケジューリングは、事前準備や実施後のフィードバック・フォローの期間を含めて行い、説明会や研修を通して全従業員と共有していきます。

5.専門の調査会社に依頼する

もうひとつ、360度評価で失敗しないポイントとして、専門の調査会社に依頼することがあげられます。自力で実施することは、不可能ではありません。しかし、360度評価を実施・運用する担当者にとっては、人的にも時間的にも大きな負担増となってしまいます。費用的な負担が発生するのは事実ですが、担当者の負担を軽減するため、そしてノウハウ的な課題をクリアし心理的安全性を確保する上でも、専門の調査会社に依頼するのがベターといえます。

>> 360度評価の外部委託については「コチラ」の記事もご覧ください。 

360度評価の注意点とリスクを理解し導入を

全ての従業員が評価に参加するという「多面評価」であるが故に、360度評価には他の評価制度にはない独特の注意点やリスクがあります。ここで、整理しておきましょう。

360度評価の注意点とリスク

・従業員のモチベーションを低下させる
・社内のコミュニケーションが停滞する
・現場から反発を受ける
・評価結果にショックを受け落ち込む

制度設計や導入プロセスがうまくできていない場合は、360度評価の実施がかえって従業員のモチベーションを低下させ社内コミュニケーションは停滞してしまいます。他者評価が初めての従業員にとっては、「仕事が増えた」と感じ反発につながる可能性もあります。また、評価結果にショックを受け落ち込む従業員もいるでしょう。

このような注意点とリスクを踏まえ課題をクリアした上で導入することが、360度評価の成否を分けるといっても過言ではありません。失敗例・成功例といった事例の確認は、そのためにも重要なのです。

360度評価を外部委託し従業員と組織の成長につなげる

様々な事例を考慮すれば、360度評価の導入・運用は弊社「リアルワン株式会社」のような専門の調査会社に外部委託することをおすすめします。費用的な負担は発生するものの、最も懸念される「人的・時間的・ノウハウ的」課題をクリアできるからです。

リアルワンは、100万人超の利用実績を持つ調査・評価の専門会社です。第一線の研究者による監修・アドバイスに基づく信頼性の高い「360度評価」で、従業員や組織の成長をサポート。業種・業界を問わず、事業規模50人程の企業から4万人超の大企業まで、多種多様な企業様から導入依頼をいただいています。導入企業の一部をご紹介しましょう。

リアルワンの360度評価導入実績

10社あれば10通りの、100社あれば100通りの事例があるのが360度評価です。リアルワンは、各事例を踏まえたノウハウで360度評価の導入・運用をサポートします360度評価の導入に迷われている担当者の方は、まず無料の資料請求から。下記リンクからお申し込みください。

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